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不正・事件・犯罪 週刊現代

国家のタブー「10億円の機密費横領」に挑んだ刑事たちの挽歌

現実は小説をはるかに超えている

2001年に起こった外務省職員による10億円の機密費流用事件。その謎を掘り起し、地道な捜査や取り調べによって、犯人逮捕までに辿り着いた刑事たちの執念を描いたノンフィクション『石つぶて』のドラマ化が決定した。

『しんがり』や『プライベート・バンカー』などノンフィクションの名手として名高い著者の清武英利氏に、今作の読みどころについてを聞いた。

「事件いのち」の刑事たち

―2001年、日本社会を震撼させた外務省職員による機密費詐取事件。ベールに包まれていた「国家のタブー」に挑んだ警視庁捜査二課の4人の刑事たちの悪戦を描いたノンフィクションです。

書くことで、組織の中の「後列の人たち」に光を当てたいと思っています。拙を守り、出世に無縁でも、心の中に小さなダイヤモンドのような「芯」、つまり志のようなものを容易に曲げない人たちです。今回取り上げた汚職や公務員犯罪を摘発する捜査二課の「涜職(とくしょく)刑事」たちもまた、不器用で得難い人々です。

歳を重ねると、新聞記者時代には見えなかったものが見えてきます。その一つは、「事件いのち」と言ってはばからない特異な刑事たちの群れです。

 

彼らは記者にコーヒー一杯さえ奢らせない。自分を律し、ろくに家に帰れないほど働いても薄給で、報われることは少ない。それでも「汚職は国を滅ぼす」と信じて、汚職摘発に誇りを懸ける人たち。改めて取材するだけで2年半が過ぎました。

―序章では、戦後の復興期から「外務省ビジネス」に携わってきたある老人の半生が描かれます。壮大なスケール感に思わずワクワクさせられます。

この「外務省機密費詐取事件」自体は判決も下っているわけで、推理小説で言えば、「犯人」がわかっているようなものです。「誰がやったか」ではなく、「なぜ発覚し」「どんな顔をした刑事がどう暴き」「何を思ったか」を明らかにしたいと思いました。

結論ありきの読者にも、ディテールと本物の刑事の感情、そして構成を練ることで、興味を失わずに読み通してもらいたかった。「どの場面から入れば読者を惹き込めるだろう」。コンテを何種類も書き、ひとつひとつの場面を書き込んだ紙を入れ替える作業を繰り返したりして考えました。

例えば、告発者が情報を提供したり、取調室で刑事が被疑者を落とす瞬間から始めたりする手法もあるでしょうが、手垢が付いている。最終的には、外務省の仕事に誇りを持って取り組んできた老人の生き様から書くことが一番ふさわしいのではないかと考えました。

ノンフィクション作家の使命

―生涯を賭して切り開いてきた外務省ビジネスが「ひどい役人たち」によって汚されている。憤った老人の体を張った告発が、個性的な刑事たちを突き動かします。

「何よりも事件が可愛い」と言って、地を這う中才宗義、彼の上司なのに中才を「ただ一人の相棒」と呼ぶ中島政司のコンビ。そして、彼らから渋々取り調べを引き継ぐ「反骨者」萩生田勝と、「落としの名人」鈴木敏。

それぞれにクセはありながらも、「罪は償わせなければいけない」という一心で、気の遠くなるような捜査を一歩ずつ進めていく。互いに抱いている複雑な感情を描いていくと、刑事の人間模様が浮き上がってきました。

―刑事たちの個性もさることながら、巨額の横領に手を染めた外交官・松尾克俊の一筋縄ではいかないキャラクターも、物語の奥行きを出すのに一役買っています。

松尾氏本人からも話を聞こうと試みました。しかし、彼はすでに罪を償い、人生をやり直している。取材を拒む彼の口を強引に開かせることはできません。私の仕事は、今に続く事実を掘り起こし、書き残すことであって、松尾氏個人を糾弾することではない。