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人生で初めて「スカート」を履いて出社した日に聴いた曲

性別の隙間から見た世界【6】

男性として生まれたものの自らの「性別」に違和感を覚え、同性愛、性同一性障害など、既存のセクシャルマイノリティへ居場所を求めるも適応には至らず、「男性器摘出」という道を選んだ鈴木信平さん。そんな鈴木さんが、「男であれず、女になれない」性別の隙間から見えた世界について描いていきます。今回は鈴木さんの人生を支えてくれた「音楽」について大いに語ります。

*バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/shimpeisuzuki

誰の目も気にせずに歩きだす

夏の暑さを予感させる鮮やかな晴天の日。

眩しさのためだけだったのか、それとも照れ隠しの気持ちもあったのか。

サングラスをかけて、私はスカートを履いた。

これが最初の一日だった。

G.W.の真ん中の日。休日にはなっていないけれど出勤する人は少ない一日に、私は人生で初めてスカートを履いて出勤した。

通勤電車に揺られる道中、サングラスをした中で目を閉じながら、自分に言い聞かせるように、イヤホンから流れるただ一曲を繰り返し聴く。

ぼくのりりっくのぼうよみ(通称:ぼくりり)

SKY's the limit

ぼくのリリっくのぼうよみ『SKY's the limit/つきとさなぎ』

CMソングとしても覚えのあるメロディーに、言葉をのせて聴く。

「誰の目も 気にせずに 歩きだす」

そして繰り返す。

「We are beautiful」

 

どの一瞬も私は私

正直なところ、自分の心の柔軟性に少し腹が立っている。

仕事において5月に初めて履いたスカートは、それから季節を一つ過ごして今は普通のことになった。

同僚に指摘されることはなく、「今日はスカート」程度の扱いで物事は進む。当然のこと、仕事には何一つ支障がなく、予想外なことにランチに出掛ける時間にも何の影響もなかった。

同僚は、スカートを履いた40歳手前の男子を誘って連れ立ち、いつもと同じお店にランチへ行く。

ここに至るまでの躊躇、いや戸惑いは何だったのか?

不安を隠すようにサングラスをかけ、最近手に入れた一張羅の音楽に背中を押されてやっと歩み出した最初の一歩はどこへ?

これぞ一人劇場、茶番劇。

今はもう、まるでずっと前から同じだったかのように、「一歩目」の存在感はどこにも見つからない。

その日の気分で私はスカートを履き、サングラスをするかどうかは、純粋に天気の状態によって決めるようになった。つまりこの夏に備えて新調したサングラスは、過去に例をみない雨降り夏のせいで、出番がほとんどない。

先日は、名刺交換をする取引先との挨拶においてもスカートだった。

名刺の名前を見て、私の容姿を見て、「こんな姿で許されるくらいなのだから、余程のスター選手か!?」とでも考えてくれれば幸いだと思いながら、誰が何に触れるでもなく、一時間の打合せは滞りなく終わった。

打ち合わせの案件に対してほぼ説明をしなかった私が、時折同僚の説明内容をフォローする姿は、取引先の人にとって「この人こそ影の支配者!」と映っただろうか?

それとも、「貴社も何かと大変ですね、お察しします」と同情を生む元凶と理解されただろうか?

いずれにしても、「スカート案件」について今の私が人の目を気にする度合いは、ほんの4ヵ月前とは比較にならない程に薄まっている。

「つまりは、私の問題だったのかもしれない」

現状を同僚がどう思っているのかは聞いていないし、会社の上層部が苦々しく思っているかどうかも知らないけれど、今のところ何の注意もされてはいない。

だから私は、何もかもを前向きに、誰もが拙著『男であれず、女になれない』を読んで私への理解を深め、少なくとも職場は純粋に成果だけで判断する場所であることを認識しているのだと理解するようにしている。