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格差・貧困 アメリカ

「思想的内戦状態」に突入した、アメリカの悲鳴

日本にとっても他人ごとではない

トランプ大統領の就任以来、アメリカは確実に変わった。国外では北朝鮮からあからさまに挑発され、国内では「負け犬白人」たちと「それ以外の人々」との間で暴動が繰り広げられる。今後、アメリカは一体どこへ向かうのか? 作家の川崎大助氏が、アメリカは「文化的南北戦争」状態にあると分析しながら、実は同じような事態が日本でも起こりうると警鐘を鳴らす――。

アメリカは思想的内戦状態

「ついに起きてしまった」――去る8月12日、米国ヴァージニア州シャーロッツヴィルで勃発した、人種偏見に満ちた極右のデモ隊と抗議者とのあいだに起きた衝突のニュースを目にして、思わずそうつぶやいてしまった人は、少なくないはずだ。底知れぬ深さを有する奈落の、黒々としたその入り口を目撃したように僕は感じた。

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いまやアメリカは、全土が「思想的内戦状態」に突入した、と言っても過言ではない。その戦いとは、白人至上主義者、白人国家主義者、あるいはネオナチやオルト・ライトたちの連合体「vs」一般大衆、ではない。

なぜならば、後者と拮抗して戦えるほど強大な勢力は、前者にはないからだ。彼ら、言うなれば「白い帝国」を希求しているような奇矯な人種差別主義者は、アメリカ社会全体のなかで見れば、圧倒的な少数派でしかない。

 

にもかかわらず、今回のおぞましい事件へとつながってしまったその理由は、ただひとつ。無数の「声なき声が自分たちの背を押してくれているのだ」と、人種差別主義者どもが錯覚したところにある。つまり「負け犬白人たち」の怒りの声の体現者こそが我々なのだ、と……それは明らかに偏向した、間違った考えかたなのだが。

逆に言うと、それほどまでにショックが大きかったわけだ。昨秋の、ショックが。2016年11月のトランプ大統領誕生について、巷間あれを「トランプ・ショック」と呼ぶことが定着しているようだが、僕は違う意見を持つ。

あれは「ヒルビリー・ショック」とでも呼ぶべきものだ。「それまでは不可視だった」負け犬白人たちの、まるでマグマ溜りのような鬱屈の蓄積が大噴火した結果、トランプのような男を大統領にまで押し上げてしまったのだから。

つまり言うなれば、現在の「内戦」は、「負け犬白人たち」と「それ以外の人々」との戦いなのだ。この先駆けとなるような抗争も、ここ数年来ずっと続いていた。「負け犬白人たち」と「良識派」との局地戦だ。

これら両者の、まったく相容れることのない、苛烈きわまりない睨み合いを、僕は「文化的南北戦争」と呼んでいた。

これは日本でも再現される

そして、この戦いにおいてつねに劣勢だった「負け犬」側が反転攻勢に出た、最初の「大勝」こそが昨秋の大統領選の帰結であり、その結果に増長してしまったのが人種差別主義者連中だったという図式だ。であるから、いま急拡大しつつあるこの戦いは、今後さらに、全米のいたるところへと飛び火していくことになるだろう。

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この短期連載で僕は、これほどまでに分断と対立が進行してしまったアメリカ社会の深層へ近づいていくための、カルチュラル・スタディーズを試みる。大衆文化とそこに表出するイメージの数々から、今日の緊迫に至るまでの経緯を追ってみたい。

なぜならば、アメリカにおけるこうした変動は、遠からず日本でも再現されることになるからだ。わかっているのだから、事前に分析して、備えておいたほうがいい。

すでに多くの人が気づいているとおり、典型的な日本人のある部分は「ヒルビリーととてもよく似ている」。ゆえに科学的に考えて、民族的、地政学的な要因からの多少の変異が加わった上での「ヒルビリーの叛乱」の日本版は、その発生まで秒読み段階に入っている、と僕は考える。そしてこれは、現在のアメリカがそうであるように、日本社会に不可逆な変化をもたらすだろう。

だから今回の連載では、まず最初にアメリカの状況を整理した上で、のちに「日本のヒルビリー」問題についても筆を進めていきたい。