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医療・健康・食 週刊現代

世界中の製薬会社が次々と撤退「認知症の薬」はやっぱり作れないのか

25年間、数千億円かけても全部失敗

莫大な資本を抱える、世界的な大手の製薬会社が、認知症の治療薬の実験に、次々と失敗している。この病気には、薬で簡単に治療できない特殊な性質がある――そんな事実が明らかになってきた。

乗り越えられない「壁」

「いまや認知症の患者は世界で4680万人。彼らは私たちの実験の成功を待っていました。だから、昨年の実験でいい結果が得られなかったことには、研究者、経営陣ともに、肩を落としました。

会社としてもこの薬の開発を非常に重視してきましたから。イーライリリーはこれまで25年以上、認知症の研究を行ってきました。投資してきた額は、30億ドル(現在のレートで約3300億円)にも及びます」

米イーライリリー・アンド・カンパニー(以下、リリー社)で認知症薬「ソラネズマブ」の研究を行ってきた、代表メディカル・フェローのエリック・シーマース氏は、本誌の取材にこう語る。

 

多くの患者とその家族に重い負担を強いる認知症。日本では、'25年に患者数が700万人を超えるとされ、「国民病」と言っても過言ではない。

認知症の6割を占める主要な原因がアルツハイマー病だが、いまのところ、患者に処方されるのは、アリセプトなど、神経細胞の伝達物質を活性化させ、進行を遅らせるものだけ。

現段階の技術では、認知症によって一度細胞が破壊され、症状が進行してしまうと、それを薬で元に戻すことは不可能だ。

いま世界中の製薬会社は、この病の根本原因にアプローチし、症状を「止める」ための薬を開発することに、しのぎを削っている。

「欧米の大手製薬会社のほとんど、おそらく数百社が開発に取り組んでいます。大手は、有望なバイオベンチャーを巨額の資金を出して買収し、そこに所属する有能な研究者やそこで作っている化合物を含めて入手することもあります。

彼らにとっては数千億円払うのも惜しくない。成功すれば十二分にペイしますから」(サイエンスライターの佐藤健太郎氏)

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日本でも、今年3月にエーザイが、3本の候補薬について治験を開始すると発表。さらに、そのために、今後1200億円を投資することも明らかにした。

ところが、これだけの資金を費やしても、これまでのところ、アルツハイマーの根本原因にアプローチする薬はことごとく討ち死にしている。

最近で言えば、昨年7月、シンガポールのTauRxファーマシューティカルズが実験に失敗。その後も今年2月にはアメリカの製薬会社メルクが、アルツハイマー薬の実験の一部を中止した。

進めていた研究から撤退する企業も少なくない。認知症の根本治療薬の開発は、乗り越えられない「壁」となっている。

リリー社も、開発を続けながら、その「壁」に阻まれてきた。