メディア・マスコミ

デジタルの世界でも変わらない、広告の「本当の魅力」とは

佐藤尚之氏×本田哲也氏×はあちゅうさん

7月26日、東京・帝国ホテルにて、第39回「読者が選ぶ・講談社広告賞」の贈賞式が行われた。「広告大賞」を受賞したのは、『VOCE』5月号に掲載されたシャネル「ルージュ ココ グロス」の広告だ。

また、本年度より新たに「デジタル広告大賞」が新設され、広告業界の話題となった。

今回、デジタル広告大賞の審査委員を務めた、コミュニケーションディレクターで「株式会社ツナグ」代表かつ「株式会社4th」代表の佐藤尚之氏、ブルーカレント・ジャパン株式会社代表取締役社長の本田哲也氏、作家のはあちゅうさんの3人が、この賞が目指すべきところと選考方法について語ったセッションを特別公開する。

人は人にしか共感しないから

司会・瀬尾傑・講談社第一事業広告部長 みなさん、本日はお集りいただきどうもありがとうございます。最初に、「講談社第一回デジタル広告大賞」の選考方法についてご説明させていただきます。講談社には10のウェブ媒体がありますが、その編集長それぞれが、対象となるデジタル広告作品に投票しました。その結果、26作品を選びましてノミネートしました。

この26作品について、こちらの3人の審査員の方に選考していただき、最終的に、今回、8作品を選ぶということになりました。みなさんどうもありがとうございました。

審査員の皆さんに改めてうかがいたいのですが、今回講談社のウェブメディアのデジタル広告を審査されて、どのように感じられましたか。

佐藤 まず、紙の雑誌の広告は、いわゆるマーケテイング的に言うと妨害型(何かを見ているときに、その間に挟まって生活者を邪魔して見せる広告)になりますよね。雑誌を読む中で、突然目に入ってくる。いっぽう、デジタルになってくると、デジタルの世界は情報量は多いわ、商品も多いわ、さらにエンタメ系動画など多い。そういうなかで、コンテンツを見ていて「ドン!」と妨害して出てくる広告は単にうざいだけで、本当に邪魔なんですね。

そういう意味で、やはりデジタルの広告は、そのメディアのもつコンテンツ制作力をちゃんと活かした、(そのメディアを)読んでる読者が親和性・コンテクストを感じるような広告・制作物を意識することが必要かなと思います。

瀬尾 エンゲージについてすこしお伺いしたいんですけれども、雑誌は割と読者に対して世界観を示していきますよね。読者とのコミュニケーションが深いというか、深夜ラジオに似たところもあります。

ゆえにメディアのなかでも読者とのエンゲージメントが深いところがあると思うんですが、講談社のデジタルメディアは、雑誌の世界をデジタルにもちこんだというものが多いですが、今回の講談社のデジタル広告については、どういうふうに佐藤さんは御覧頂いていますか。

佐藤 そのメディアの編集長が前に出てきた広告企画がいくつかあったのが印象的です。編集長はその雑誌の「顔」ですし、メディアの世界観を見せるうえでは非常に効果的でしょう。やっぱり、人は人にしか共感しないので、編集長が前に出てくるのはいいですよね。

ラジオの深夜放送も同じで、やっぱり人に共感する、つまりDJやパーソナリティに共感するんです。耳元でささやかれて共感をしていく。そういう意味で、紙の雑誌の世界のエンゲージメントを上手にデジタルに移しているなと思いました。編集者や制作者を前に出してくるというところが大事だと思います。

瀬尾 本田さんは、今回審査されていかがだったでしょうか。

本田 いま、デジタルマーケティングが広がっているわけですけれども、デジタルでできることの可能性とか、実験的なことも含めて、まだまだいろいろあるなと感じましたね。また、昔から雑誌が持っている特有の良さ、特性みたいなものがありますが、デジタルによってやれることが増えることで、その特性が拡張されるということが、雑誌系メディアがつくる広告の本質だと思っています。

デジタルに関する新しいテクノロジーとか使い方のノウハウも、もちろん戦術的に大事なのですが、「そもそも雑誌ってこういう良さあるよね」とか「もともと何十年も前だってこういう組み方で成果あったよね」といったような、普遍的なところが一周回って大事になってくるんじゃないかな。そんなことも感じましたけどね。

瀬尾 はあちゅうさんいかがでしたか。

はあちゅう 審査をしながら、出版社はこういうコンテンツや広告を作っていきたいと思っているんだなと、自分自身が気付きましたね。私も何冊か本を出していますが、出版社の方々は、文字の置き方や校閲にすごく丁寧に時間をかけてくださるんですよね。そのコンテンツ作りへのこだわりというのが、デジタルの広告にも活かされるようになったときに、どんな可能性があるのか、という、そういう未来を想像しながら審査させていただきました。

瀬尾 出版社の、デザインへのこだわりとかクリエイティブのテクニックとか、そのあたりをつよくお感じになられたということですか。

はあちゅう そうですね。読ませる記事広告にすることだったり、長文を読んでいても苦にならないとか。あとはやっぱり写真のクオリティも含めて、しっかり作ってるところが、他の後発のウェブメディアとは違うところかなと思いました。

左から瀬尾部長、佐藤氏、本田氏、はあちゅうさん

「ウザい」を超えるには?

瀬尾 僕はこの6月から広告部署の部長になりましたが、その前は編集をやっていました。あらためて、広告のクリエイティブとはなんだろう、ということを最近良く考えているんですね。雑誌はすごく、世界観を伝えやすいものだったのですが、デジタルでどうその世界観を表現すればいいか。いろんな意味でトライアルの途中であり、また可能性もすごく感じています。デジタル広告のクリエイティブについては佐藤さんはどういうふうにお考えですか。

佐藤 さきほどの話とちょっと重なるんですが、コピーのタグラインのことを「キャッチ」って言うじゃないですか。記事を読んでいる人の目をキャッチして気持ちをグッと持っていく。露出をして、目立って、ある意味、妨害をしていくわけですけども。そういうクリエイティブがよしとされたのが、いわゆる(以前の)マスメディアの広告です。これは新聞でもテレビでも変わりません。

いっぽう、デジタルの世界ではそのことを「ウザい」というふうに見る人が多いわけです。ですから、露出してなんとか気持ちを奪っていこうという感じから、より「共感」が必要なものになっていきますよね。相手の側はもう、いろんな情報をいやというくらい持っているので、そこにストーリーや背景を感じさせて、なんとか共感してもらう。そちらの方向にクリエイティブは進んでいくと思います。本当は、雑誌の編集者や記者はそういうのが得意なはずなんですよね。共感を作るのが。彼らが積極的に広告制作にも携わっていけば、可能性は大いにあると感じます。

瀬尾 共感を得るためにクリエイティブを使うということですね。

佐藤 共感、という言い方は手垢にまみれたものかもしれないですけれど。僕はそう思っています。

瀬尾 本田さんいかがですか。

本田 ふたつあると思います。ひとつはストーリーテリング。時間の制約や、従来の表現方法の制約が、デジタルの世界ではかなり自由になるから、表現も多様になります。表現が多様になると、ストーリーテリングの範疇が増えてくるだろうなということです。もうひとつは、どういう環境で広告が見られているかという視点は案外大事なんですよ。スマホでどういう時間に見ているのかとか、例えば通勤中だから絶対に音を出せない状態で見ているのではないかとか、広告を見られている環境への想像力もすごく大事になってくるんじゃないかと考えていますね。

瀬尾 デバイスによって環境が全然変わってきますよね。

本田 昔みたいにお茶の間のテレビで広告を見ていたなら、音は絶対に出ているし家族は一緒だしという限定的な環境でしょう。でも、いまはすごく多様ですよね。

瀬尾 広告における共感について、はあちゅうさんはどう考えますか。

はあちゅう みなさん、数年前に比べて「共感」の使い方が上手くなってきているなとは思います。SNSを使う人が増えていて、自分が発信も受信も両方を経験しているから、共感というものが身近に理解できるようになっているのでしょう。あとは、本田さんがおっしゃったように、いまはどういう環境で見ているかというところまで考えて、広告を届けていかなくてはいけないので、拡散ひとつするにしても、たとえばツイッター用に短い動画を作ってみるとか、ちょっと切り口の違うものを各SNSごとに用意するみたいなところまで、今後は考えていかなきゃいけないのかな、と思っています。

瀬尾 「ゲキサカ」というサッカーのサイトが講談社にはあるんです。いま10年目くらいですが、もともとサッカーメディアとしては後発。それが、メディアを立ち上げるときに、他のサッカーサイトがJリーグや海外のニュースを中心に扱っていたのに対して、ゲキサカは高校・大学サッカーをメインに取り上げることにした。そうすると、高校生の子たちが、自分たちも出られるメディアだということですごく支持してくれて。

県大会が行われる場合には、向こうから「ゲキサカ」で使える写真を撮るためのカメラマンを探してくれたりもするんです。そういう子たちがいま、日本代表になったりしているんですが。若い子たちに聞くと、ゲキサカにすごく親近感を持ってくれている人が多いんですよね。これは、やはりサイトを見てくれている人とのコミュニケーションが多いことが成功の一因ではないかなと思っています。

いっぽう、昨年はフェイクニュースの問題のように、デジタル広告のいわば闇の部分も出てきました。そのなかで、デジタルでブランドメディアを作るものとしての役割があるのではないか、とあらためて感じたりもしているのです。そのあたりについてはどういうふうにお考えでしょうか。

佐藤 メディアとしての意識を持っている会社が、しっかりした姿勢を示していくことはとても大事ですよね。いっぽう、デジタルは毎分・毎秒、アマチュアが入ってくる世界です。それも、個人発信も含めるならば、制作者側の立場で入ってくるわけです。ですから完全な枠をつくるのは難しいとも思うのですが、本当にいいものがちゃんと評価されるという流れをしっかりと作っていくのは、やはり業界の先人として求められることなのだろうと思います。

瀬尾 そういう意味では今回のような賞の存在というのは大事なことかもしれませんね。

佐藤 「権威づける」と「うざい」って思われちゃいますけどね(笑)。でも、いい広告、表現のお手本になるようなものがちゃんと出てくると、「ああいうのを作らないと信頼を得られないのだ」という意識も生まれてくるのではと思うんですよね。

はあちゅう 私も、ネットは「基準のない世界」だなあと思っていて、目立てばいいというか……、もちろん目立つことは悪いことではないのですが。世界観をしっかり作っているものや、読者とコミュニケーションを取っているというところも含めて、ある基準から広告を評価する場があるのはすごくいいことだと思います。

AIには負けない

本田 やっぱりここ1~2年くらいで業界全体も学びがあったと思うんですけど。広告よりもコンテンツと言ったほうが正しいような状況になってくると、「コンテンツ作るのってそんな簡単な話じゃなかったよね」と再認識したところだと思います。出版社が出す雑誌というのは、苦労をされて取材して、準備して作っていく。このプロセス、人員をかけるところというのは、かつてはなんとなく忘れがちだったかもしれませんが、あらためてその大事さを見直すような前向きな流れになっていると思うんです。

瀬尾 最後にあらためて伺いたいのですが。デジタル広告はまだまだ変わっていくと思います。さきほどデバイスの話も出ましたが、例えば環境でいえばこれから第5世代ケータイがはじまって、通信環境がすごくよくなって、そうすると動画とかAirとかVRとかの新しい表現方法も出てくるだろうし、あるいはAIのような違う仕組みも入ってくる。このなかで広告がどうなっていくのか。変わっていくものと変わらないもの、ここはどうご覧になっていますか?

佐藤 テクノロジーはまったく関係ないと思っています。人は人に共感するのであって、テクノロジーに共感するわけではありません。人の心が喜んだり泣いたりする「人のストーリーや背景」を作っていく、そういうものがないと人は共感しません。共感しないと人ってなかなか商品を買いたい、とは思わなかったりします。たとえば友人から口コミで伝わる情報でなぜその商品を買うのかと言えば、それは友人に対する共感が先にあるから。

そこがAIに変わったとして、そこでちゃんと共感を作れるならいいんですけど、基本的にテクノロジーはそういう共感を作っていくよりも、評価したり分析をしたりすることを得意とするものですから。やはり、共感の部分についてはテクノロジーに渡してはいけないと思いますね。

いままで出版社が培ってきたコンテンツ制作力を、この共感を生み出すことにフルに力を注いでいけば、決して負けないと思うんですね。最後はそこの勝負になると思うので。

本田 僕も同感です。やっぱりAIに奪われない部分をしっかりやっていかなくてはいけない。それは人間の本質を察していくような、そういう部分について考えることが必要なんだと思います。それに、いろんなブランドや商品に新しい意味付けをしていくとか、ある情報に新しい意味を付けていくというのは、やはり人間の仕事ですよね。

それを最適化していったり、分析していく部分は、テクノロジーによって相当奪われていくかもしれませんが、残っていくところに価値があると思います。そこはやっぱり追求していきたいですよね。

瀬尾 「最適化」というのは聞こえはいいのですが、それが結果的に読者に嫌な体験を押し付けることだってありますからね。

本田 最適化自体が目的じゃないですからね。最適にした結果、嫌われたんじゃ元も子もないですから。テクノロジーは活用するためにありますけど、そのものは手段であって目的ではないというのは、今一度考えるべきだと思いますけどね。

はあちゅう お二人が先に結論を言ってくださったのですが、テクノロジーが入ってきてしまうと、新しいものを使うことそれ自体を目的にしてしまいがちで、じゃあそれを使えばいい、という単純な思考に陥ってしまいがちなんですね。私が広告会社にいた時代、そういう「新しいものを使いましょう」という以上の提案ができるかというのを、皆さん、すごく考えていました。

結局、伝えたいメッセージに合わせて新しいものを上手く作っていくというところが大事、その本質は変わることはないと思っています。