週刊現代

佐々木俊尚「僕の人生を方向付けた10冊の本」

新しい世界の見方を教えてくれた
佐々木 俊尚 プロフィール

人間は常に常識に囚われていて、その常識が生き方や社会のあり方を縛っている。そこから外に一歩踏み出すことがいかに難しく、重要であるかという視点などを学びました。

常識を、20世紀や昭和という時代が持つ神話と言い換えることもできますが、その神話を解体することは、僕がフリーになって10年以上、仕事にしてきたテーマです。政治や社会はもちろん、身近なところでは家庭料理にだって神話があります。『気流の鳴る音』は考え方のベースになり、10回以上は読み返しています。

 

遠藤周作の『沈黙』も長年読み続けている一冊。生きていることの不安を引き受けるのが宗教なのか、日本人と外国人の宗教感覚はなぜ乖離しているのか、など根源的な疑問を考えさせてくれます。現在、宗教がテーマの本も執筆中です。

今は簡単に文章に触れられるネットがあり、かつての僕がなったような「活字中毒」とはあまり言わない時代。それでも本は一冊の中に一つの世界があり、世界に触れることで新しい視野が拓かれ、世界そのものを自分のものにもできる特別な存在。形は変わりますが、きっと無くならないでしょうね。

(取材・文/佐藤太志)

「スナックについて学術的研究をした本ですがこれがむちゃくちゃ面白い。書かれているように確かにスナックには家でも職場でもないサードプレイス的な側面があります。緻密な研究と深い洞察がなされた良書です」

佐々木俊尚さんのベスト10冊

第1位『気流の鳴る音
真木悠介著 ちくま学芸文庫 900円
「自分が見ているのとは違う世界が存在することに気づかされる。著者の本では『時間の比較社会学』も好きです」

第2位『二十億光年の孤独
谷川俊太郎著 集英社文庫 480円
「思春期特有の感情を言葉で書き切っているのがすごい。『青春は恋と革命』という瀬戸内寂聴さんの主張にも通じる」

第3位『沈黙
遠藤周作著 新潮文庫 550円
「言葉を伝えるでも、奇跡を起こすでもない、ただそばにいる神。遠藤周作の宗教観は自分にも納得がいきます」

第4位『サイゴンから来た妻と娘
近藤紘一著 文春文庫 500円
「サンケイ新聞記者の著者による本。『サイゴンのいちばん長い日』もセットで読みたい」

第5位『小田実全集評論 8 状況から
小田実著 講談社
「多大な影響を受けました。母が心配して学校に相談してたけど先生は大目に見てくれた」

第6位『〈帝国〉
アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート著 水嶋一憲ほか訳 以文社 5600円
「テクノロジーが変える社会の姿を考える際に助けになる本。今の時代を明確に示している」

第7位『荒野へ
ジョン・クラカワー著 佐宗鈴夫訳 集英社文庫 670円
「自然と対峙して自分の変化を見つめたくなる人間の性質は僕にもよくわかります」

第8位『火山のふもとで
松家仁之著 新潮社 1900円
「読んでいてすごく心地がいい。描かれる時間の中にずっと浸っていたくなる小説」

第9位『万延元年のフットボール
大江健三郎著 講談社文芸文庫 1650円
「高校の頃に読み、楽しむだけじゃない、視野を拓かせてくれる読書があると驚いた本」

第10位『ルビコン・ビーチ
スティーヴ・エリクソン著 島田雅彦訳 ちくま文庫 1200円
「数多くの時系列が一つの世界の中に存在する感覚。一瞬のイメージの重なりが美しい」

『週刊現代』2017年9月9日号より