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週刊現代

佐々木俊尚「僕の人生を方向付けた10冊の本」

新しい世界の見方を教えてくれた

学生運動に憧れて

小学生のときの夏休み。いとこの家にあった世界少年少女文学全集を手に取り、全巻読破したのが、僕の読書癖の始まりです。低学年の頃からスポーツもせず趣味もなく、本しか読んでなかった。

高学年になるとほぼ毎日、放課後に図書館に通うようになります。ぜんぜん運動しなかったので、ついに父が「本ばかり読むな!」と怒り出す始末。せめて釣りぐらいして体を動かすよう言われたんですが、釣り竿を持って外出し、結局、図書館に行っていましたね(笑)。

 

中学までは日本と海外の文学を愛読。ただ、高校からは一変します。小田実の『状況から』に出合い、衝撃を受けました。作家の小田実は、ベ平連(ベトナムに平和を! 市民連合)の中心的な人物でしたが、この本で世の中を変革することの大切さを書いていて、激しく感化されたんです。

以来、学生運動に憧れながら、ノンフィクションやマルクスなどの思想関連の本も読みふけります。校舎の中庭で毎週木曜日に集会を開いて友達も巻き込んでいましたね。

同時期に読んで、非常に感動したのが谷川俊太郎の『二十億光年の孤独』。思春期独特の寂しさってありますよね。それをすごくダイレクトに言葉にしていて圧倒されました。

革命思想に染まるのと、谷川俊太郎の詩に憧れるのは、根本はあまり変わらないと思います。どちらも叙情的なんですよね。

受験は京都大学を志望。'80年頃の京都にはまだ学生運動の嵐が吹き荒れていて、その空気に浸ってみたかったんです。

結局落ちて浪人し、早稲田に進学。'81年の春、東京に来てみると、京都との温度差が激しい。もう革命や学生運動の気配は何もなくて、学生がスーツを着て名刺を持って遊び回るなど、バブル前夜の浮かれた方向に走り始めていました。

ついていけず、結果、山登りに熱中するようになります。クライミングや冬山など過酷な登山をするようになり、2回ぐらい死にかけたこともありました。

なぜあんなふうに山登りをしていたのか、自分でも理由がわかりませんでしたが、社会人になって読んだ『荒野へ』で氷解。僕も主人公のように、誰もいない荒野に行き、極限の中で自分を試したかったんだと気づきました。

宗教を考えるきっかけに

大学時代に読み、忘れられない本が近藤紘一の『サイゴンから来た妻と娘』。面白くて深くてペーソスもあって。こんなに素晴らしい文章が書けるようになりたい、新聞記者って、なんて格好良いんだろうと感銘を受けました。就職先に新聞社を選んだ理由のひとつが、この本です。

記者時代の当初は本を読む時間もまったくないぐらい、とにかく忙しかった。バブルは終わりつつある頃、地方勤務を終えて東京に戻ると、その後オウム真理教事件や阪神・淡路大震災、金融危機などが起こりました。

世の中が変わる出来事の渦中で、新聞記者として現場を追っていると、不条理に直面することも多い。読書の習慣が復活し、自分なりに考えを深めるようになります。

気流の鳴る音』はその頃に読み、新鮮な風をフッと吹き込まれたような、感動を覚えた本です。

著者名の真木悠介は社会学者の見田宗介の筆名。人類学者のカスタネダの論と比較社会学を中心に、インディアンの呪術師の教えなどを例に出しながら、西欧的な近代合理主義の考え方に依らない、新しい世界の見え方を提示してくれています。