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不正・事件・犯罪

検察・新特捜部長がいきなり直面する「甲斐の壁」「黒川の壁」

エースは立ち向かえるのか

いきなり直面する壁

「法務・検察」の9月人事で、東京地検検事正には甲斐行夫・最高検刑事部長が、特捜部長には森本宏・東京地検刑事部長が、それぞれ就任する。

捜査を決裁する東京地検次席には、4月、山上秀明氏が就いているので、今後、「権力の監視機構」である地検特捜部の指揮系統は、甲斐検事正、山上次席、森本特捜部長という縦ラインとなる。

検察関係者が、早速、指摘するのは「新特捜部長は、『甲斐のカベ』に直面して苦労するだろう」という点だ。

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検事は、法務省を中心に歩んで出世する「赤レンガ派」と、東京、大阪、名古屋に置かれた特捜部を中心に歩む「捜査派」に大別される。甲斐検事正は特捜経験のない典型的な「赤レンガ派」で、しかも最高検刑事部長の前は最高検監察指導部長だった。

「検察庁職員の違法・不法行為に関する情報を把握・分析し、必要に応じて事実関係の調査を行い、それに基づいて必要な指導等に当たる」という部署の長で、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を受けた検察の組織改革のなかで設置された。甲斐検事正の「起訴の条件」が厳しくなるのはやむを得ない。

一方の森本部長は、特捜検事、特捜部副部長を経験したという意味では「捜査派」だが、法務・検察の「エリートの登竜門」といわれる法務省刑事局総務課長を経験の後、法務省の主要ポストを経ることなく、捜査現場に戻ってきた。

「赤レンガ派」にも足場を置くという意味では、文字通り「検察のエース」で、特捜部長として18年6月までに施行される「司法取引」を利用した「新しい捜査手法」を確立することが期待されている。

 

過去に「権力の監視役」として赫々たる成果を上げてきた地検特捜部が、10年の大阪地検事件以降、検察改革に踏み切って捜査を自粛、取り調べの可視化(録音録画)などもあって立件するのが容易ではなくなり、次第に自信を失っていった。

加えて、「官邸主導」の流れは検察にまで及び、「政界捜査は官邸の了解」が“約束事”となって、国民の期待も薄れた。

森本部長は、ブルドーザーのように疑惑の周辺をなぎ倒しながら捜査する「最強の捜査機関」の頃の検察も、捜査に何かと制限を加え、「否認案件は認めない」とハードルを上げる検察首脳の圧力のなかで弱くなって「無駄飯喰らいの腰抜け集団」と、月刊誌に揶揄される今の検察も知る。

5期18年、福島県知事を務めた佐藤栄佐久氏は、06年9月、県発注のダム工事をめぐる汚職事件で特捜部の追及を受けて知事を辞職。その後、逮捕起訴され、08年8月、東京地裁で有罪判決を受けた。

控訴の後、著した『知事抹殺』(平凡社)で、佐藤氏は「事件はつくられたもの」と、特捜捜査を批判するのだが、そもそもタイトルの「知事抹殺」は、森本氏の弁である。

佐藤氏は、自身の弟の佐藤祐二氏を取り調べたのが森本検事だと明かしたうえで、祐二氏に対して、こんな言葉を投げかけたという。

「知事は日本にとってよろしくない。いずれは抹殺する」

特捜検事の調べの過酷さは、それを受けたものでなければわからない。検事は、悪口雑言を浴びせかけ、徹底的に人格を否定、被疑者を追い詰めるが、その他、妻子の逮捕を匂わせて揺動、あるいは愛人の存在をチラつかせるなど、持っている材料は何でも使って自白に追い込む。

その自白は、起訴しやすいことが前提。つまり捜査シナリオに沿ったものであり、それ以外は認めない。