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週刊現代

「伝わらない」が「伝わる」に変わる、魔法の日本語トレーニング法

本を読む?日記を書く?いいえ違います

自分ではきちんと話せているつもりでも、なかなか言いたいことが相手に伝わらない…そんな経験はありませんか? そんなもどかしい「伝わらない」が「伝わる」に変わる教科書、その名も『大人のための国語ゼミ』が話題をよんでいます。著者の野矢茂樹氏は哲学者として長年論理トレーニングを重ねてきた人物。思考の旅を経て野矢先生がたどり着いた「国語力」を磨くとは一体どんな方法なのか、インタビューしました。

「国語力」が落ちている

―日々の暮らしの中で誰もが使う「普段使いの日本語」をもういちど学びなおすための一冊です。これまで哲学や論理学について多くの本を書かれてきましたが、いま「普段着の言葉」に立ち返ったのはなぜでしょうか。

それはもう、「日本を変えるため」です(笑)。私はこれまで、自分が楽しいから本を書いてきました。哲学についても、論理学についても、高尚な理想を掲げて書いたことはありません。

しかし、この本は「日本の国語教育をなんとかしなければ」という、熱い思いに突き動かされて書き上げました。国語力はすべての基礎のはずなのに、その基盤がぐずぐずになっている。その現状をなんとかしたいと思ったのです。

―日本語への危機感があったのですね。

言葉を伝える際に一番大切なのは、「相手の気持ちを考える」という当たり前のこと。しかし、学生だけでなく社会人も含めて多くの人が、それができなくなっている。

相手に伝わる言葉を使えるようになるには、伝えたいという気持ちと、相手に合わせて的確に伝える言葉の技術が必要です。ところが、日本の国語教育はそういう点がまったく不十分です。

 

例えば、高校の「現代文」の授業では、難解な小説やエッセイ、小難しい評論を解釈することが求められますよね。しかし、そうした鑑賞に値する文章を読み解くことと、「普段使いの国語力」や「相手に伝える力」を養うことは、本当は分けて学ぶべきことのはずです。

そこで、本書では、読者に実践的に考える経験を積んでもらうために、ただ解説をするだけではなく、問題文を解いてもらう形式にしました。

この本は「読む」のではなく、「やる」本なんです。問題を「やる」、つまり、自分の頭でじっくりと解答を考えてほしい。通勤電車の1~2時間で読み飛ばしてしまうのではなく、毎週一章ずつやる、みたいな本にしたつもりです。

―問題文は実際にありそうな対話やウィットに富んだ文ばかり。読むだけで楽しめます。

題材の文章は、面白そうな内容を探して、全て私が書き直しました。問題は担当の編集者がすべて解答を試みてくれたのですが、しばしば想定外の答えが返ってくるんですね。「え、ここダメなの?」みたいな(笑)。

その反応を見て、難易度を変えたり、説明を加えたり、一回模擬授業をやっているようなもので、まさに「相手に合わせた」問題作りができたと自負しています。

重要なのは「質問力」を磨くこと

―2章では、「事実・推測・意見」の違いを、実例を挙げて紹介。3章の「言いたいことを整理する」では、思いつくまま書くのではなく、いかに文章を整えるかの方法をまとめています。

大人でも「事実」と「意見」の違いをよくわからないままに議論をしています。また、立場の違いによって表現が変わるのも国語の面白さです。例えば、先日の沖縄・辺野古基地の移転訴訟について、読売新聞は「国側の勝訴」と書き、毎日新聞は「沖縄県の敗訴」と書いた。それぞれの新聞社の立場が反映されていますよ。

―5章の主題は要約。「文を〇字で要約せよ」という問いに対する整然とした解答例を読むと、「こんな授業を受けたかった」と思わされます。

文章の「枝葉」を切り落とし、「幹」を残すのが要約です。いかに「切ってつなげるか」を考えることは、国語力向上のすごくいいトレーニングになります。文章の読み方にメリハリが出てきて、より速く、正確に内容を捉えられるようになる。相手に要点が伝わりやすい文章を書くための修行の第一歩です。