漫画版『罪の声』は「キツネ目の男」に届くか

塩田武士×須本壮一【特別対談】

1984年に発生した「グリコ・森永事件」は、戦後最大級の未解決事件として現在もなお知られる。当時、犯人らは挑戦的な内容の脅迫状を用いて警察を翻弄し、現金の受け渡し場所を指示する際などに、子どもの声が入ったカセットテープを送りつけた。

この声の主となった複数の子どもたちは、事件後30年以上が経った現在どこにいるのか? そんな事件(作中では「ギンガ・萬堂事件」)の謎に迫った小説『罪の声』が、昨年8月の刊行以来17万部を突破する大ヒットとなった。今年8月23日には漫画版(『イブニング』誌上で連載中)の第1巻も刊行され、その勢いはとどまるところを知らない。

今回は漫画版の刊行記念企画として、原作者の塩田武士氏と、漫画版の作画を担当する須本壮一氏による特別対談をおこなった。元神戸新聞記者として緻密な取材をもとに小説をつむいだ塩田氏と、『永遠の0』『海賊と呼ばれた男』をはじめ小説のコミカライズを数多く手がけてきた須本氏がこだわったものは? そして、大ヒット小説をコミック化する苦労とは――? 

取材と創作の醍醐味を存分に語り合った二人の対談。

(構成・安田峰俊/ノンフィクションライター)

私もイギリス取材に行きました

――フィクションなのに、限りなくノンフィクションに近いように感じられてしまう。それが『罪の声』の最大の魅力です。塩田さんは、小説の執筆に際してイギリスまで取材に行かれたんですよね。

塩田 はい。執筆前に英検準1級を取って取材に行きました。イギリスはストーリーの序盤と終盤に登場する、物語のキーとなる土地ですから。

――一方で、須本さんも漫画版を描くにあたりイギリスに取材に行かれたとか?

須本 ええ。イギリスは塩田さんのおっしゃるように、キーとなる土地なのですが、描く前にいまいち現地の雰囲気の想像がつかなかった。ちょっと時間はかかるのですが、これは行っておかないと駄目だと思いまして。

 

塩田 須本さんがイギリスに行っていた時に、すごく怖いことがあったんですよ。夜中にいきなり私のスマホが「チャリチャリチャリッ」と鳴り続けて、LINEの未読メッセージが30件ぐらい増えていた。通知機能にバグが起きたのかと思って、送信者を確認したら全部須本さんから。イギリスの現地取材で撮った写真をドドドッと連続で送信してくれたんです(笑)。たとえ付き合っている彼女でも、普通は連続30通もメッセージを送らないですよね?

須本 送信時は間隔を開けて送ったつもりだったのですが、海外にいたせいか、一気にセットで送られちゃったみたいですね。すみません(笑)。

塩田 でも、あれを見た瞬間は嬉しかったし、ホッとしたんですよ。自分の小説がメディアミックスされるのは初めての経験で、最初はやはり「あの作品が、いったいどんな漫画になるのか」と少し不安も感じていた。でも、須本さんからの30通のLINEを見たときに「この人に描いてもらうなら絶対に大丈夫だ」と確信しました。おお、この人は私と同じ匂いがすると思って(笑)。

発売されたばかりの漫画版第一巻(Amazonはこちらから

――小説にせよ漫画にせよ、効率を優先するなら、現地に行かずにGoogle mapを眺めるだけでも街並みの描写はできるはず。しかし、2人ともそれをせず、現地に行って実際の現場を見ないと気が済まないタイプの創作者だったわけですね。

須本 取材、好きなんですよ。作中のキャラクターはこの道を歩いて、この光景を見て、という実感を自分のなかで持っておくことが大事だと思うんです。そうしておくと、絵を描くときの説得力が全然、変わるんですよね。

須本壮一 1980年第19回『週刊少年サンデー』新人コミック大賞佳作でデビュー。代表作に北朝鮮拉致問題を扱った『奪還』『めぐみ』があり、また戦記物『夢幻の軍艦大和』では、戦艦や戦闘機のリアルな描写が話題に。百田尚樹氏原作『永遠の0』『海賊とよばれた男』のコミカライズでは作画を担当。また執筆の傍ら、子ども達の笑顔を支援する漫画家のNPO団体ビースマイルプロジェクトの代表理事も務める。

塩田 小説はゼロから1を生み出す作業だと思っています。そのためには、細部にこだわることが重要で、自分の足を使って調べることは、絶対におろそかにしちゃいけないと思うんです。今回、『罪の声』を漫画として再びゼロから1にしていただくにあたって、須本さんから自分と同じ気概を感じたときは本当に嬉しかったですね。