米国と中国が覇権を競い合うという世界が急速に現実化しつつあるようだ。
中国が進める新シルクロード経済圏構想「一帯一路」に沿って、米中のせめぎ合いが熾烈化しそうな気配なのである。
そして憂慮すべきは、グランド・ストラテジー(総合戦略)なきトランプ外交が結果的に中国の影響圏拡大を後押ししかねないことだ。
「一帯一路」は、米中の新たな分断線となるのだろうか。この構想の焦点となっているパキスタンとイランをめぐる最近の動きを見てみたい。
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トランプ米大統領は8月21日、アフガニスタン新戦略を発表した。
選挙キャンペーン中は、米軍(現在約8400人規模)の早期撤退を訴えていたトランプ氏だが、「勝つために戦う」と述べ、期限を設けずに米軍駐留を継続させる方針に転じた。
また、米メディアはトランプ大統領が4000人の増派を承認したと伝えている。
注目されるのは、この方針がより幅広く「南アジア戦略」として表明され、敵対するパキスタンとインドを張り合わせるかのように両国に注文をつけたことだ。
トランプ氏はこう主張している。
「新戦略の柱の一つは、パキスタンへの対応を変えることだ。我々はこれ以上、パキスタンがテロ組織やタリバンの安全な隠れ家になっていることに黙っていない。
我々はパキスタンに何十億ドルも与えてきたのに、彼らは我々がまさに戦っているテロリストをかくまっているのだ。こんなことは今すぐに止めなければならない」
アフガンの旧支配勢力タリバンや武装組織「ハッカニー・ネットワーク」がパキスタン西部の国境地帯に潜伏し、パキスタンの軍情報機関「ISI」がこうした組織を支援していることは広く知られている。
しかし、過去の米政権は、アフガン政策での協力が欠かせないことやその地政学的重要性から、パキスタンには腫れ物に触るように対応してきた。そうした中で、新戦略として打ち出されたのが、パキスタンへの恫喝的なアプローチである。
トランプ大統領はさらに、アメリカのパートナーとしてパキスタンとインドを天秤にかけるかのように次のように訴えた。
「アメリカはインドとの戦略的パートナーシップをさらに発展させていく……インドがアフガニスタンで我々をもっと助けてくれることを望む」
これもトランプ流のディール外交なのかもしれない。
しかし、印パ関係はカシミール地方の領有権問題などをめぐり常に一触即発の状態である。アフガンはその印パ両国の“代理戦争”の場となっているだけに、アメリカ大統領の演説としては耳を疑いたくなるような中身である。
見逃せないのは、トランプ大統領のインド傾斜の姿勢がパキスタンの対中依存が強まる中で示されたことだ。
トランプ演説から間髪を入れず、中国外務省がアメリカを当てこするように以下の声明を発表したことは、習近平政権にとってパキスタンが持つ意味の重要性を示すものだろう。
「我々は、テロとの戦いにおけるパキスタンの努力を国際社会が十分に認識すべきだと考える」