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大腸がんから生還した学者が語る「日米がん格差」の衝撃

日本は本当に医療先進国なのか?
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キレイな病院にいい医者、充実の保険制度。日本の医療は安心だ――。そうした思い込みが治療の選択肢を狭め、寿命を縮めることもある。米国のがん治療の「常識」から、日本の問題点を明らかにする。

医療の質の「バラつき」が問題

「日本の医療は世界でもトップレベルだから、どの病院でも高いクオリティのがん検査や治療を受けられると考えている人が多いと思いますが、それは誤った認識です。

様々なデータを読み解くと、アメリカのがん治療に比べて、日本のがん治療には大きな弱点があることがわかってきます」

こう指摘するのは、国際医療経済学者のアキよしかわ氏だ。アキ氏の著書『日米がん格差「医療の質」と「コスト」の経済学』は、日米のがん治療について、ビッグデータを用いて分析し、その差異と問題点を浮き彫りにした画期的な一冊である。

アキ氏は日米の医療現場に精通し、その経験から患者のQOL(生活の質)を上げるための研究を進めてきた。

アキ氏自身、'14年にステージ3Bの大腸がんと診断され、闘病生活を送ってきた「がんサバイバー」の一人だ。

日米のがん治療の違いを身をもって体験していくうちに、日本の医療の問題に気付く。それは、受けられる医療の「質」に大きなバラつきがあることだ。

 

「私が患った大腸がんの場合、切除のセオリーとしては開腹手術と腹腔鏡手術の2つがあります。身体への負担を考え、腹腔鏡手術を希望する人は多いですが、どこでも腹腔鏡手術を受けられるわけではありません。

'15年に日本のがん専門医の研究会で発表されたデータでは、大腸がんの手術で100%の割合で腹腔鏡手術を選択している病院がある一方で、50%、20%、なかにはほとんどすべて開腹手術を採る病院もありました。

部位やステージによって選択肢が変わりますが、前出のデータは症例数が多いがん拠点病院が集まる研究会のデータです。このことは、日本には腹腔鏡手術ができる医師がまだ少ないという可能性を示唆しています。医師の絶対数が少なければ、それだけ腕のある医師も他国に比べて少なくなってしまう。

このことは、患者が選べる医師や治療の幅が狭まっていることを意味します」(アキ氏)

 

日本は国民皆保険制度のおかげで、重粒子線治療などの先進医療以外であれば1~3割負担でがん医療を受けることができる。また、費用がかさんでも高額療養費制度によって月9万円程度で済む場合がほとんどだ。

一方で米国の医療費は民間の保険会社頼りで、一回の手術で300万円を超えることもあるが、そのぶん良質な医師や病院を選ぶことができる。

目で見る日米「がん格差」

このことを端的に示すのが、下図の日米を比較した「術後アウトカムのバラつき」に関する研究をまとめたものだ。アウトカムとは、医療が提供された後の結果・成果のことで、「医療の質」を評価する上で最も重要な指標である。

「5つの手術方法について、『術後死亡率』『術後合併症』『救命の失敗』『医療費』という4つの観点から医療の質のバラつきの大きさをそれぞれ示したのが下図です。

横軸の右に行くほどバラつきが大きいことになり、米国では医療費のバラつきが大きいが、医療の質のバラつきは日本のほうが大きいことがわかります」(アキ氏)

アキ氏と米スタンフォード大が共同研究した「日米における術後アウトカムのバラつき」
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