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羽生善治「棋士になって30年、まさかこんなことになるとは…」

人工知能の現在と未来

提供:NTT

2017年夏、棋聖タイトルの防衛を果たしたばかりのプロ棋士・羽生善治は、東京・三鷹にやってきた。目的地はNTTの叡智が集結している研究所・武蔵野研究開発センタ。ここでは知る人ぞ知るユニークなAI研究がたくさん行われているという。

案内役兼対談相手は研究部門のトップ、篠原弘道NTT副社長。将棋と人工知能、そして人類の未来をめぐる知的刺激に満ちた対談をお楽しみください。

羽生善治と篠原弘道

コンピュータと「温故知新」

篠原弘道 タイトル防衛、おめでとうございます。

羽生善治 ありがとうございます。

篠原 将棋界はコンピュータとの関わりがとても深い世界ですね。コンピュータ将棋は劇的に強くなりました。当事者として、羽生さんは今の状況をどうご覧になっていますか?

羽生 近年、将棋界でAIの開発が非常に早いスピードで進んだ理由は、いくつかあります。

ひとつは、開発がオープンになっているということ。開発者の皆さんは、純粋にそれが好きでやっています。商業ベースに乗っていないので、自分がつくったプログラムはたくさんの人に使ってもらいたい。だから、プログラムがオープンソースとしてどんどん公開され、スピーディに発展しています。

それから、将棋とはまったく関係ない人が関わっているというのも大きいですね。化学系から法学系まで、多分野の優秀な方が参入しています。ちょっと前であれば考えられないようなコラボレーションが起きていて、面白い時代になりました。

篠原 コンピュータ将棋が強くなってきたことで、人間の将棋にはどんな変化が起きていますか? 個人的には、棋士とAIの対戦は、新しい指し手に棋士が気づくチャンスじゃないかと思います。

羽生 そうですね、将棋ソフトに対する意識はだんだん変わってきていると思います。それから、どれだけAIが進化しても将棋そのものが完全に解明されることは理論上ありえないので、その点では安心している部分もあります。

最近、私が非常に面白い現象だなと思っているのは、コンピュータ将棋の影響で新しい手が現れているというよりも、むしろ「温故知新」のようなことが増えていることなんです。

100年、150年前によく指された形で、これはもうダメだ、いまは全然使えないと思われていた手が、意外と可能性があるんじゃないかと見直されるケースが多くなっています。

羽生善治羽生善治 1970年生まれ。1996年には竜王、名人ほか7つのタイトル全てを獲得。2008年、永世名人の資格を取得した

篠原 温故知新の手というのは、その局面から進んでいく先……たとえば5手先、10手先が昔とは違っているんですか?

羽生 ちょっと違うという感じですね。昔とはちょっと違っていて、やってみたらなるほどたしかに、ということが多いんです。そういう意味では、コンピュータ将棋の進展によって、過去400年分の将棋が見直される可能性があるんじゃないかなと思っています。

もちろん、コンピュータはこれまでにまったくなかったような斬新な手、セオリーに反した手も指すんですけど、それは人間の美意識が拒絶してしまうんですよ。

篠原 その美意識というのは、この手は汚いから指したくないとか、こういう詰め方は嫌だというような棋士が持っている感性ですよね。そういうものは、AIがどれだけ進化してもなくならない気がするんですけど、羽生さんはどうお考えですか?

羽生 それはやっぱり常にあるでしょうね。ただその一方で、コンピュータ将棋にふれることによって、人間の美意識自体が影響を受けるということもあると思うんです。

美意識というのは決して固定的なものではなくて、必ず時代とともに変わっていくものなので、今後ちょっとずつ変わっていくでしょう。実際、これまでは醜い形・悪い形と思われていたのが、やってみたらけっこういいということもありますから。