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エリート家系でただ1人「学習障害」を抱え否定され続けた女の悲劇

育てられない母親たち⑤

ノンフィクション作家の石井光太さんが、自ら生んだ子供を手放す「ワケあり」の母親たちを密着取材していく本連載。彼女たちが「我が子を育てられない」事情とは?

* 石井光太さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kotaishi

15人に1人が発達障害

厚生労働省の調べでは、発達障害の子供は、程度の差こそあれ、約15人に1人いるといわれている。見方を変えれば、親の中にもそれくらいの発達障害を抱える人がいるということだ。

養育困難の問題において、発達障害は精神疾患ほど議論されることはない。それは発達障害そのものが養育困難の主な原因になることが多いわけではないだろう。重度のADHDや自閉症スペクトラムならともかく、学習障害が直接の原因となることは考えにくい。

だが、養育困難の家庭への取材を進めていくと、遠因として「学習障害」が挙げられるケースが少なくない。学習障害が幼少期の様々な問題を引き起こし、それが養育困難家庭を生み出してしまうのだ。

今回は、そうした家庭の例から考えてみたい。

 

「お前みたいな馬鹿は一家の恥だ」

中部地方の一軒家で、岡園沙耶は3人姉妹の末っ子として生まれた。

家は、まずまず恵まれていた。父親は医師で、母親は専業主婦。経済的に困るようなことはなかった。

両親は教育に厳しかった。親戚もみな、一流企業に勤めていたことから、いい大学を出て、誇れるような職につくことを子供たちに求めた。それゆえ、姉妹は3人とも小学校受験をさせられ、私立のお嬢様学校へ入学させられた。中高の偏差値はいいが、「小学校受験は親の収入とコネがあれば入れる学校」だったという。

姉2人は中学までお嬢様学校で過ごし、高校は名門高校へ編入。そのまま揃って有名国立大学に入学するほど勉強ができた。だが、沙耶だけはどういうことか、勉強ができなかった。どれだけ予習、復習をくり返しても、成績は底辺を彷徨った。

見かねた両親は、沙耶の要領が悪いのだろうと考え、週に5日塾に通わせたり、家庭教師をつけさせたりした。それでも一向に成績は上がらない。中学に上がると、周りのレベルが高くなり、余計に成績の悪さが目立った。

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両親は連日のように沙耶に対して厳しく当たった。「あんたみたいな頭の悪い子は一家の恥だ」「きっと病院で取り違えが起きて別の親の子供をもらってしまったのだろう」「知的障害があるなら手帳をもらって家を出て行け」「姉たちと話をするな。馬鹿がうつる」……。罵る言葉は次第に激しくなり、テストの成績が悪い時は、真冬でも何時間も表に立たされたり、夜が明けるまで玄関で正座をさせられたりした。