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ある知的障害をもつ女性が抱える、恋と育児にまつわる様々な問題

育てられない母親たち④

ノンフィクション作家の石井光太さんが、自ら生んだ子供を手放す「ワケあり」の母親たちを密着取材していく本連載。彼女たちが「我が子を育てられない」事情とは?

* 石井光太さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kotaishi

わが子を手放すまで

これまでわが子を手放してきた親たちは、不遇な家庭環境から精神を病み、それが大人になって育児困難につながってきた。

今回見ていくのは、もともと知的な問題を抱えている親がぶつかる育児の壁だ。

かつて日本では、施設が障害のある夫婦が結婚する際に、断種手術を求めることがあった。知的障害者は子育てができないという誤った認識のもとで、そうした愚かなことが行われたのだ。

 

現在、障害者の結婚は以前と比べれば寛容になっている。著者自身、つい先日北陸にある障害者施設で行われた障害者同士の結婚式に参加したばかりだ。

とはいえ、知的障害を抱えた夫婦にとっての育児は、健常者のそれより困難であることは想像に難くない。それは母子生活支援施設に入居する母親のうち、23.5パーセントが知的・精神、身体障害を抱えていることからも明らかだろう。

では、知的障害者は、どのような形で育児困難の壁に当たり、そしてわが子を手放すことになるのだろうか。そこにスポットを当ててみたい。

自閉症の男性とデキ婚

梶川美由紀(仮名)は、軽度の知的障害を持って生まれた。IQは60台。背が低く、ふわーとした雰囲気で、何も考えずに相槌だけを打っている女性だ。

両親の意向で小学校、中学校は普通学級で学んだが、中学時代にいじめにあったため、卒業後は特別支援学校の高等部に入学した。その後、障害者を多く受け入れているクリーニング店で働きはじめた。

美由紀が13歳年上の谷亮(仮名)と知り合ったのは、その職場でのことだった。亮は自閉症をわずらっていた。2人は家が近所だったことと、趣味のゲームが同じだったことで、お互いの家を出入りするようになり、やがて恋に落ちた。

結婚が決まったのは、出会ってから5年目のことだ。美由紀が妊娠したのである。当初は両家の親が話し合って、中絶することも考えたが、本人たちがどうしても生んで結婚をしたいと言い張ったので、認めることにしたのだ。

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生まれたのは、女の子だった。2人は子供が1歳になってからアパートを借りて暮らしはじめる。だが、すぐに壁にぶつかった。美由紀は離乳食づくりやおむつ替えを毎日続けて行うことができないのだ。

夫の亮もそうだった。彼は極度の潔癖症だったこともあって、よだれを垂らしたり、お漏らしをしたりする赤ん坊を触ることができない。

そこで美由紀の両親が毎日アパートに来て、赤ん坊の世話をすることになった。離乳食をつくり、お風呂に入れ、オムツを変える。熱を出した時は駆けつけて病院へ連れて行った。育児のすべてを両親が代わりに行ったのである。

こうした生活は長くは続かなかった。娘が2歳になって間もなく、美由紀の父親が脳梗塞で倒れてしまったのだ。半身が麻痺して1人でトイレすら行けなくなった。母親は夫の介護と、孫の世話を同時にすることになる。

この状態が、母親の心をすり減らした。間もなく母親はうつ病をわずらい、2年後に自宅で自殺をしてしまった。