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発達障害の息子と「共依存」し、ストレスで自分の髪を抜く母親の告白

育てられない母親たち【3】
石井 光太 プロフィール

ゆくゆくは共倒れに

私は景子の話を聞いて、1つ疑問に思ったことがあった。

景子は息子を手放したいけど社会がそれを許してくれないと語っていた。だが、本気になれば、何だってできるはずだ。彼女が完全に育児放棄をしてしまえば、児童相談所が息子を引き取ることになるだろう。

なぜ彼女は息子を手放すことを望んでいるのに、それをしないのか。

 

このことを問い詰めたところ、景子は苦々しい表情になって言った。

「もしかしたら、息子を手に負えないと思う一方で、息子に依存しているのかもしれません。これまで十数年間、ずっと息子との関係の中で自分の人生があった。それがなくなってしまったら自分が壊れてしまう。あるいは、どうなるかわからない。そんな恐怖があるんです。だから、いざ離れるとなると怖くなる……」

精神を病んでいる母親と、重度の発達障害を抱える息子とが、共依存の関係にあるのだろう。だが、一つ屋根の下で暮らしている限り、2人は傷つけ合うだけで、ゆくゆくは共倒れになるのは明らかだ。

やはりいったん離れた方がいいのではないか。そう言うと、彼女はこう続けた。

「息子がいなくなったら、市営住宅から出ていかなければならなくなります。そしたら、私はどこへ行けばいいんでしょう。自分じゃ、住むところを探すことなんてできません」

インタビューの前、私たちは改札口が1つしかない駅で待ち合わせたにもかかわらず、彼女は「迷子」になった。彼女はそんな不安定な自分をわかっているからこそ、息子と別れて1人で生きていく勇気がないのではないか。

「息子もそうなんだと思います。あの子は私にだけ甘えて、他の人には絶対に変なところを見せない。そのぶん、他のところへは絶対に行こうとしないんです。施設にだって行くはずがありません」

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息子を育てることができない母親と、抑制できない息子。この2人が支え合うように一つ屋根の下に暮らしながら、お互いを傷つけ合っているのだ。さらに言えば、こうした共依存の中で親から子へと負の連鎖が行われてしまっているのだろう。

日本の社会には、問題を抱えた親や子を個々に支援する福祉制度はある。だが、共依存して悪影響をお互いに与えつづけている母子をともにサポートする態勢はまだまだ整っていない。こうした親子をどう支えていくべきか。今後ももっと議論されなければならない問題である。

* 石井光太さん記事バックナンバーはこちら http://gendai.ismedia.jp/list/author/kotaishi

「親子愛」という粉飾が家族を追い詰める