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「死体格差」死に方から見えてくる現代社会の問題点

私たちもいつ巻き込まれるかわからない

死因がわからない、ある男性の解剖

数年前の8月末、関西にある私たちの法医学教室に50代の男性が運ばれてきた。本人と連絡が取れないことを不審に思った家族が警察へ連絡して部屋に入ったところ、男性が倒れていたという。

部屋には鍵がかけられており、誰かが侵入した形跡はない。だが、男性の額には、何かとぶつかった傷があった。警察は、死因がはっきりしないということで、私たちの法医学教室に解剖の依頼をしたのだ。

解剖台の上の男性はやや痩せていて、やつれたように見えた。男性の下腹部は、腐敗のために緑色に変色している。死後数日は経っているように見えた。外表には、額の傷のほかに目立ったものはなかった。

50代の男性というので、その年代の人に起こる突然死の原因として多い心筋梗塞や脳出血が死因なのかもしれないと思い、解剖をすすめていった。

胸から腹の皮膚を切開した後、胸腔を開けて心臓を取り出す。心臓には、心筋梗塞の痕は見つからなかった。脳にも異常はなかった。頭蓋骨も骨折していない。男性の額には傷があったが、そのことは死因とは関係はなかったことがわかった。

臓器を一つひとつ、いつものように観察していったのだが、これといった異常は最後まで見つからなかった。

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とりあえずの解剖を終えて、遺族のために発行する検案書の死亡原因欄に、「不詳」と記載した。解剖室を出るときに、教室の検査担当者に、「糖尿病の血液検査をするように」と指示した。解剖を始めるときに警察から、この男性には糖尿病の既往症があると聞いていたからだ。

警察によれば、男性は病気の診断はされていたが、その後、治療を受けた形跡はなかったという。

解剖から一週間ほどして、血液検査の結果がわかった。

 

この男性の場合、ケトン体という物質が異常に増加していた。ケトン体は、風邪などであまり食事を取れなくなったりしただけでもすぐに検出されるようになる。血液の中でケトン体が少々増えたからといって、生死に関わる問題にはならないのだが、あまりに増加すると昏睡状態となって死亡することがある。

血液検査では、ケトン体のほかにも異常があった。男性の血糖値は1000mg/dL近くもあった。正常値は100mg/dLくらいだ。検案書の死因欄に「不詳」と記載していたところを「糖尿病性昏睡」と書き直した。