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週刊現代

司馬遼太郎、三島由紀夫、山﨑豊子…彼らの小説が名作と呼ばれるワケ

小松成美さんを作家にした10冊の本

坂本龍馬の見た景色

今回は時代に爪痕を残した10冊を挙げました。

私は半世紀を生き、この先、何冊書けるだろうかと考えた時に、自分が生きてきた時代、さらに日本が辿ってきた歴史を振り返るようになったんです。そこでここ数年、明治維新くらいから勉強し直しているんですが、その中で再び読み直したのが『竜馬がゆく』です。

初めて読んだのは9歳の時でした。家の本棚から偶然見つけたんですね。読めない漢字だらけでしたが、ものすごく面白かった。司馬竜馬を改めて読んで、坂本龍馬がいたから今の日本があるのだと思うとともに、現代に、龍馬がいたらなあと思わずにはいられませんでした。

土佐の人たちは、自分たちの利害だけではなく、国のために働いた。まだ「日本」なんて大きな輪郭を思い描けなかった時代に、龍馬はなぜそれができたのか。実は私は高知県観光特使に選ばれて、何度も高知に足を運ぶ中で、龍馬がその上で酒を飲んだという八畳岩に座ってみたんです。

 

眼前には海と空がつながる大パノラマが広がっていました。その景色を見た時、少しだけわかったような気がしたんです。小さな城に権力が集中し、人は身分で分けられているけど、世界はかくも広く自由だということを、龍馬は岩の上から思いめぐらせていたのではないかと。あまりにも有名な本ですが、さらに読み継がれてほしいですね。

時代は下って、激動の昭和を描いた作品を2冊。山崎豊子さんの『不毛地帯』は、大本営参謀からシベリア抑留を生き抜いて、戦後、商社マンとして辣腕をふるった男、壹岐正の物語です。彼は戦闘機の購入をめぐって暗躍するんですね。こんなにも老獪で不屈の日本人がいたのかと驚いてしまう。

もちろんフィクションですが、伊藤忠商事の元会長・瀬島龍三がモデルの一人と言われています。この本を読み返すたびに「現代の瀬島龍三は誰だろう、孫正義さんかな」などと考えます。そして私が「現代の瀬島」を書くとしたら、ここまで肉薄できるだろうかと、自問自答するんです。

もう一つは三島由紀夫。三島は、作品のみならず彼自身が昭和という時代に爪痕を残した人でもあります。あれほど美しい文章を書く天才が、なぜ楯の会という私設軍隊をつくり、果てには割腹自殺を遂げたのか。その悲しみを癒やすために何度も読んだのが『憂国』です。

新婚の中尉が切腹し、妻がその後を追うこの作品には、自決する姿が克明に描かれており三島が未来を予見したのかとさえ想像しました。