元保育園、現住居。面積は1000平米近い。photo by Ario Kawauchi
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パリで出会ったアーティスト夫妻が、山奥の元保育園に移住したワケ

田舎暮らしで人生変わった【前編】

長さ45メートルの廊下

岡山県の中北部、久米郡美咲町。

360度ぐるりと棚田が広がる清らかな集落の一角に、カラフルな絵がぎっしりと描かれた奇抜な建物がある。

こうして改めて見ると、なかなかのインパクトだ。

 

「元々は保育園だったんだけど、廃園になった後は何年も使われていなかったんだって。入居した時はけっこう汚かったから一生懸命掃除しました」

そう説明してくれるのは、7年前からここに暮らすアーティストのスカット☆リンダ(以下リンダさん)。持ち家ではなく賃貸物件である。一緒に暮らすのは、夫の楽画鬼(ラクガキ)さん(以下ガキさん)、長男・名月(なつき)君(5歳)、そして次男山伽(さんが)君(1歳)。

 へえ、保育園って借りて住めるんだと驚きながら、玄関の引き戸をあけると、そこには、「ながーい!」と声をあげてしまうような廊下があった。

長さ45メートルもの長ーい廊下。photo by Ario Kawauchi

玄関の先には、土間作りの台所(調理室!)や倉庫があり、奥には元・教室が並ぶ。台所と物置を抜かすと、部屋は全部で5つ。それぞれの部屋は、普通の住宅ではまず見ないジャンボサイズ。

ある時、リンダさんは廊下の長さを測ってみると、長さは45メートルだったそうだ。さらに奥にはステージ付きの「遊戯室」(小さい体育館のイメージ)もあるため、建物の面積は1000平米近い計算に。ということは、私の東京の自宅(55平米)の18軒分! 

家賃は何と1万円

ディテールを見ればみるほど、あ、ここは本当に保育園だ!と感じさせる。洗面台の蛇口の高さは膝ほど。庭には、滑り台やブランコも残っている。そして部屋には古いオルガンや小さな机がちらほら。それらが、家中を彩る無数のアート作品と一体化し、独特のカオス感を放っている。

こうなると気になるのは家賃。

「ちなみにいくらですか……」と聞いてびっくり、なんと月1万円!

その1年分は、うちの東京の家賃1ヵ月分よりも安い。1平米あたりの単価を計算してみると、我が家はリンダさんの家の270倍に。
 
なんだか常識がグルリとひっくり返って、卒倒しそうなのである。

ここで夫婦は、喫茶スペース「キッサコ」とヨガ教室を開いて、生活している。ヨガのインストラクターは「バリ島に通いながら習得した」というリンダさん。確かに2児の母にしては、かなり健康的でスリムな体つきだ。

ここは作品制作に没頭したい2人には、ぴったりの環境だ。なにしろ、どんなに巨大な作品でも全く問題ないし、高い家賃のためにあくせくと仕事をする必要もない。時間、おカネ、スペース、そして精神にも余裕が生まれ、作品制作への意欲はノン・ストップである。

アトリエは20畳ほどと十分な広さだが、すでに足の踏み場もない状態に。「狭くなっちゃって」とのことで、今や遊戯室もアトリエとして使用中。