国際・外交

「アメリカが最も恐れた沖縄の男」瀬長亀次郎の一生涯

すべては持たざる人のために
佐古 忠彦 プロフィール

アメリカが最も恐れる男

当時、ウルマ新報の記者だった仲松庸全が、この現場にいた。

「瀬長さんが鳥打帽をかぶったまま座っているんですよね。私自身も声を出したが、うおーっという地鳴りのような声が、会場全体から上がった。ああいう宣誓拒否は、その場面は残しておきたかったと思うぐらいです。おどろきというか、感動というか……。アメリカに対する抵抗を表した。アメリカ帝国主義への挑戦ですよ」

亀次郎のこの行動には、ハーグ陸戦条約を法的な根拠としていた。

いわゆる戦時国際法のひとつで、攻撃手段の制限や占領、交戦者の資格、捕虜の取り扱いなどを規程している。その中に、

「占領された市民は、占領軍に忠誠を誓うことを強制されない」 

という条文があるのだ。亀次郎の行動には常に、法律的な裏づけが意識されていた。

 

実はこの前日、立法院の職員が亀次郎の自宅に来て、何度も宣誓書への捺印を迫っていた。すでに亀次郎を除く全ての立法院議員の捺印が済んでいたが、亀次郎は最後まで説得に応じなかった。ずらりと並ぶ名前の下、瀬長亀次郎だけが空欄なのである。

亀次郎は、「立法院議員は、米国民政府と琉球住民に対し厳粛に誓います」という条文の「米国民政府」の部分を削らないと宣誓書に判は押さない、という。

「これはひとり沖縄県民だけの問題ではなく、日本国民に対する民族的侮辱であり、日本復帰と平和に対する挑戦状だ」

困り果てた職員は、宣誓書をいったん持ち帰るほかなかった。

再度見せられた宣誓書には、亀次郎の要求通り「米国民政府」の文字が消えていた。

〈宣誓 吾々は茲に自由にして且つ民主的な選挙に基いて琉球住民の経済的政治的社会的福祉増進という崇高な使命を達成すべく設立された琉球政府の名誉ある立法権の行使者として選任せられるに當り琉球住民の信頼に應えるべく誠實且つ公正に其の職務を遂行することを厳粛に誓います〉

しかし、これには見えすいたカラクリがあった。宣誓書には、英語で書かれたものと日本語で書かれたものの二つがあり、英文を確認すると、こちらのほうには「米国民政府」がしっかりと残されていたのだ。

あの宣誓の場で、何度名前を呼ばれても、亀次郎が返事をすることも立ち上がることもなかったのには、そういうわけがあった。この日から亀次郎は、「アメリカが最も恐れる男」「沖縄抵抗運動のシンボル」となる。