Photo by iStock
警察 インテリジェンス 公安

「公安が強盗に入る」と批難された非合法捜査のやり口

ある公安警察官の遺言 第4回
極左過激派やオウム真理教事件など、昭和から平成にかけて日本を揺るがせた大事件の「裏側」で活動してきた公安捜査官・古川原一彦。その古川原が死の直前に明かした、公安警察の内幕やルール無視の大胆な捜査手法から、激動の時代に生きたひとりの捜査官の生きざまに迫ります。長年、古川原と交流を持ち、警察やインテリジェンスの世界を取材し続けてきた作家・竹内明氏が知られざる公安警察の実像に迫る連続ルポ、第4回(前回までの内容はこちら)。

「これ、お前じゃないだろうな」

自らの手で逮捕した連続企業爆破事件の容疑者・佐々木規夫を超法規的措置で釈放され、日本赤軍を追うことを誓った古川原一彦に、再びチャンスが巡ってきた。所轄勤務などを経て、警部補として公安部公安一課に復帰したのである。

担当は調査第一。「黒ヘル」と呼ばれたノンセクト急進派グループの「追及」が任務だった。追及とは、尾行、張り込みによって、非公然アジトを暴くことである。

当時の公安警察では、テロを防ぐという名目で、盗聴、侵入などといった法を逸脱した非合法捜査が、暗黙の了解のもと行われていたという。無論、古川原も突っ走っていた。

「おい、古川原!ちょっと来い」

公安一課の大部屋に、上司の管理官の怒鳴り声が響いた。

「なんですか?」

「これ、お前じゃねえだろうな」

管理官はデスクに「人民新聞」のコピーを投げた。

<公安が強盗に入る>

大きな見出しが躍っている。

古川原は記事を手にとって顔をしかめた。人民新聞は大阪にある新左翼系の新聞で、日本赤軍と関係が近いとされていた。ある女性活動家の家に公安捜査員が侵入したことを暴いた記事だった。

 

古川原は軽く舌打ちしてこう言った。

「馬鹿な警察官がいるものですね。警視庁はこんなドジなことはいたしませんよ。どこかの県警がやったのでしょう」

「そうか。警察庁には古川原ではないと報告を上げておくぞ。わかったな」

管理官の声を背中に聞きながら、古川原は素知らぬ顔でデスクに戻り、後輩に目配せした。