学校・教育

「パパみたいにならないでね」という母親のグチが子どもをダメにする

世代間連鎖を防ぐ子育て論(5)
信田 さよ子 プロフィール

「イクメン」は増えたけれど……

では、母親を中心とした、子どもがあたかも臣下であるような関係は、父親が育児に参加すれば防げるのでしょうか。

「イクメン」とは、「ワークライフバランス」のような、男性も仕事をするだけではなく育児に参加しようという政府の提唱から誕生し、全国的に広がった言葉です。地方自治体の男女共同参画センターでは「イクメン講座」などが開かれた時期もありました。

育児休暇を取る男性を増やそうという主張、休日には子どもと遊ぼうといったキャンペーンも展開されていますが、現実はそれからは程遠いことは周知のとおりです。

 

しかし街を歩けば、抱っこ紐で子ども連れている父親たちにはいっぱい出会いますし、父親がベビーカーを押したりする姿や、明らかに育児をひとりで担当している男性の姿も珍しくありません。これらは、私たちが育児をしていた1970~80年代には見られなかったものです。

イクメンが増えるのはたしかにいいことでしょう。それに、どこか気恥ずかしい気配を残していた男性の育児を、むしろかっこいいのではないかとファッショナブルに転じさせることができたのも意味がありました。

女性誌の一部では、都心の広大な公園でパパが子供と遊んでいる光景がグラビアを飾り、たいてい、傍らではモデルのようにスラリとしたママが足を組んでベンチでそれを眺めています。

もちろん、子どもに目もくれずに自分だけゴルフに行くパパより、子どもといっしょに公園に行って遊んでくれるパパのほうがいいに決まっています。育休をとれるパパはそれほど多くないでしょうが、育児に明け暮れる毎日の大変さを経験することは、宇宙旅行よりも大きな経験になるはずです。

でも、それだけでは不十分ではないでしょうか。

イクメンが引き起こす「育児の覇権争い」

もともと育児のほとんどを担っている母親と父親との関係がどうなのか、父親の育児参加に対して母親がどう感じているか、が大きな要素となるからです。

ときどき気まぐれに、「イクメンだよ」と言って育児にかかわられても、母親としては迷惑かもしれません。たまに手伝うくらいで大きな顔をしないでよ、と反発する母親もいるかもしれません。

イクメンといえども、妻(母親)に対して威圧的だったり、子どもをめぐって妻をバカにしたりという態度と無関係ではありません。「育児の覇権争い」(父と母が、どちらが正しいかを競い、たがいに批判しあう)が起きてしまうとしたら逆効果でしょう。

母親と父親の関係が、否定し批判し合う関係ではなく、尊重し合っているかどうかという視点を抜きにしてイクメンを持ち上げることは、いくつかの危険性をはらんでいます。

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もっとも多いと考えられるのは、いま述べた「育児の覇権争い」です。母と父(妻と夫)のあいだに競い合いが生まれる危険性です。

「今までこうやってきたのに、口を出さないで」
「休みの日だけ勝手に子どもをいじっても、どうせ最後は私がやらなきゃならないんでしょ」

こう言ってかえって妻のほうがイライラしてしまったら逆効果ではないでしょうか。中には「やっぱ、パパのほうがいいんだよね」と子どもに語りかけ、妻をむっとさせる夫もいるでしょう。

そんな様子を察知してすかさず、「ママってこわいよね~」と子どもを取り込み、「ママよりパパのほうが好きだよね~」とダメ押しをするのです。そんな夫の態度は、果たして育児の助けになっているのでしょうか。妻はますます不機嫌になり、子どもにもあたりかねません。

このように、育児をめぐって父と母が対立し、互いに子どもを取り込もうとすることは、子どもにとっては決してうれしいことではありません。