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40代に告ぐ!医師がすすめる「アルツハイマー治療」の秘策

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ブルーバックス編集部

ところが、この「脳の糖尿病ラット」に、「デテミル」というインスリン製剤(糖尿病患者にインスリンを補給する薬剤)を1回だけ注射したところ、翌日からひどい迂回に改善がみられ、3日目にはほぼ正常になり、5日目以降は正常なラットとまったく同じ成績を収めたのである。

また、実験後に「脳の糖尿病ラット」の脳を、海馬を中心に調べたところ、アミロイドβタンパクが正常なラットより1.5倍多く蓄積していた。インスリン分解酵素は逆に減少していた。ところが「デテミル」注射後の「脳の糖尿病ラット」では、アミロイドβタンパクの蓄積は正常なラットよりむしろ低く、インスリン分解酵素も正常なラット並みに回復していたのだ!

この実験結果は、まさにアルツハイマー病とは「脳が糖尿病になった状態」であることを立証するものであると、鬼頭氏、新郷氏は考えている。

では、私たちの脳はどのようなときに「糖尿病の状態」になるのだろうか。近年、脳のMRI画像を分析する手法が発達し、アルツハイマー病の特徴である「海馬の委縮」の程度が詳細に観察できるようになってきた。その結果、わかってきたのは、海馬の委縮は糖尿病を患っている人に多くみられるという事実だった。しかも、糖尿病を患っている年数が長いほど、海馬の委縮の程度は大きくなっていたのである。

このことは、結局、脳から下が一般的な糖尿病になることによって、脳も糖尿病の状態になる可能性が高くなることを示唆している。

その理由の1つとして、全身と脳の間にある、「血液脳関門」の存在がある。血液脳関門とは、脳というきわめて重要な器官に異物が入り込まないよう、全身からの血流を監視し、多くの物質を通行止めにしている「血管の関所」である。しかし膵臓でつくられたインスリンは、脳でもブドウ糖の取り込みに必要なので、この関所を容易に通過することができる。

ところが、糖尿病を患って全身のインスリン抵抗性が高まると、インスリンが血液脳関門を通過できなくなることがわかっている。その結果、脳内でインスリンが不足し、脳が糖尿病状態となってしまうのだ。

「アルツハイマー病は脳の糖尿病である」という仮説は、もはや仮説にとどまらない真実性を帯びてきている。そしてこの前提に立つことで、従来、有効な手立てがなかったアルツハイマー病対策への展望は一気に開けてくる。

アルツハイマー治療の切り札

基本的には、通常の糖尿病対策こそが、アルツハイマー病対策としてもそのまま有効であると、「脳の糖尿病ラット」の実験をした一人、鬼頭氏はいう。糖尿病対策の大きな柱といえば、よく知られているように食事療法と運動療法だ。

なお、鬼頭氏は1927年生まれで現在、90歳。いまも神奈川県の医療施設で神経科外来の患者を診察する現役の医師であり、かつ北米神経学会名誉会員として研究発表を続けている現役の研究者でもある。

その話しぶりは卒寿とは思えないほど明晰そのもので、アルコールやたばこはもちろん、糖尿病の原因因子とされるものは若い頃からいっさい遠ざけてきたという言葉には説得力がある。

糖尿病対策としての食事療法や運動療法については巷間さまざまなものが紹介されているのでここではふれないが、これらでは十分な効果があがらないときは、薬剤による治療を考えることになる。

ただし、薬によって血糖値を下げるのは、低血糖という危険な症状を招くおそれがあるので、慎重に薬を選ばなくてはならない。その意味で鬼頭氏が糖尿病薬の第一選択として推奨するのは、インクレチン関連薬だ。

インクレチンとは食事をすると小腸から分泌される消化管ホルモンで、血糖値が高いときだけ膵臓に働きかけ、インスリンの分泌を促進する作用をもつ。

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インクレチンにはGLP‐1、GLP‐2の2種類があり、このうちGLP‐1には、膵臓への作用のほかにも筋肉や脂肪での糖取り込みの促進、心機能の亢進、血管の拡張など、多くの有益な生理作用があるのでより有効なのだが、非常に短い時間で分解されてしまう性質がある。そこでGLP‐1の分解を抑え、長く作用するようにつくられたのがGLP‐1受容体作動薬である。