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40代に告ぐ!医師がすすめる「アルツハイマー治療」の秘策

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ブルーバックス編集部 プロフィール

インスリンが膵臓でつくられていることは、よく知られている。しかし、このホルモンはなんと、脳の中で記憶をつかさどる「海馬」でもつくられているといったら、驚かれるのではないだろうか。

2011年に発表された重要な論文がある。それによると、健康なラットの海馬の神経幹細胞(神経細胞に変わる能力をもった幹細胞)を糖尿病のラットの膵臓に移植すると、インスリンの分泌能力が高まり、糖尿病が改善されたという。このことは、健康な海馬の神経幹細胞が膵臓に移植されて、インスリンをつくるようになったことを意味している。

このようにインスリンは海馬でもつくられていて、そこでは「記憶物質」として機能しているのだ。具体的には、臓器の中で最も「大食い」である脳が大量に必要とするブドウ糖を血中から取り込むように海馬に働きかけて、記憶力を高めていることが近年の研究でわかってきたのである。

そして、このことから、アルツハイマー病とは、いわば脳が糖尿病と同じ状態になり、インスリンが作用しなくなったために、海馬がブドウ糖を取り込めなくなって引き起こされるのではないか、という仮説が生まれてきたのである。

では、「脳が糖尿病になる」とはどういうことだろうか。

一般的な糖尿病では、初期段階の高血糖状態のときに、膵臓はなんとか頑張ってインスリンを出して、血糖値を下げようとする。そのため、血中のインスリン濃度が異様に高くなる。

しかし、糖尿病が進行すると、インスリンをいくら出しても、ブドウ糖の取り込み機能がいわば「バカになって」しまって、それに見合うほどには血糖値は下がらなくなる。つまり、インスリンが効かなくなってしまう。これを「インスリン抵抗性」という。インスリン抵抗性は、糖尿病の程度を示す重要な指標である。

「脳が糖尿病になる」とは、海馬において、このインスリン抵抗性が高まった状態をいう。そのために、脳がブドウ糖を取り込めなくなり、糖が利用できなくなってしまうのだ。

糖を大量に必要とする脳がブドウ糖を取り込めなくなれば、当然、記憶や認知機能に障害をきたすことになる。

さらに、海馬のインスリン抵抗性が高まると、もうひとつの問題が起こる。インスリンは量が増えすぎると弊害があるので、脳内ではその量を調節するために、インスリン分解酵素が働いている。

しかし実はこの酵素には、アミロイドβタンパクを分解する作用もある。脳内に過剰に蓄積すると「魔のリレー」を発動させる、アルツハイマー病の原因物質だ。ところが、海馬のインスリン抵抗性が高まり、インスリンが異常に分泌されるようになると、インスリン分解酵素はインスリンの分解だけで大量に消費されてしまい、アミロイドβタンパクを分解できなくなってしまうのである。

「脳が糖尿病になる」ことがアルツハイマー病の原因であるという仮説は、このような根拠からみちびかれるのだ。

ラットを用いた実験結果は…

この仮説を証明するために、ラットを用いて先駆的な実験を試みた日本人の研究者がいる。広島大学名誉教授の鬼頭昭三氏と、沖中記念成人病研究所主任研究員の新郷明子氏である。

2人は、まず「脳が糖尿病になったラット」をつくるため、ストレプトゾトシンという薬剤をラットの脳内に注射した。これによって、インスリンがブドウ糖を脳内に取り込む作用が阻害されるのである。

アルツハイマー病の中心的な症状は、「いつ」(曜日、日時、季節)、「どこで」(場所、方角)、「だれと」(相手)がわからなくなることだ。鬼頭氏と新郷氏は「脳の糖尿病ラット」を用いて、このうち「どこ」についての認知機能を調べる実験を試みた。

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(1)直径180センチ、深さ100センチの円形のたらいに、墨汁などで不透明にした水を満たす。水面下に、10cm四方のプラットホームを、水面の上からは見えないように置く。

(2)正常なラットと、「脳の糖尿病ラット」を水中に入れ、自力でプラットホームがある場所まで泳ぎ着かせたあと、時間をとって、景色(そこから何が見えるか)を記憶させる。

以上の準備をしたあとで、それぞれのラットをもう一度、水に入れ、彼らが景色の記憶を頼りに泳いでプラットホームにたどりつくまでの時間や、経路の効率性を計測したのだ。

1日に1回の実験を9日間連続で繰り返したところ、正常なラットでは3日目から学習効果が顕著に表れ、ほとんど一直線にプラットホームに到達するようになった。ところが「脳の糖尿病ラット」は、9日目になってもひどく迂回して時間をかけなければたどり着けず、学習効果はまったく見られなかったのだ。