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40代に告ぐ!医師がすすめる「アルツハイマー治療」の秘策

現在、糖尿病の人は必読です

脳を蝕み、少しずつ萎縮させながら認知症を発症させるアルツハイマー病。今、この恐ろしい病が、実は糖尿病と密接に結びついていたという驚くべき見方から、特効薬の開発が進められていることをご存じだろうか。『アルツハイマーは「脳の糖尿病」』を上梓した鬼頭昭三・広島大学名誉教授に最先端事情を聞いた。

5人に1人が認知症という現実

これから日本人を待ち受けているさまざまなリスクの中で、最もおそるべきものは何だろうか。

2048年までにかなりの確率で起こるとされる南海トラフ巨大地震は、もちろんその筆頭候補だろう。その被害は最大で死者32万3000人、経済損失は220兆3000億円にのぼるとも予想されている。しかし、そのような外力によるカタルシスのほかに、社会の内側からひたひたと忍び寄っている脅威もある。

2025年に日本は、国民の3人に1人が65歳以上の高齢者という、かつて人類が経験したことのない「超・超高齢化社会」を迎える。いわゆる「2025年問題」である。

そしてその頃には、高齢者の5人に1人が、認知症にかかっていると厚生労働省は予想している(現在は高齢者の7人に1人が、認知症者かその予備軍)。その数は、650万人から700万人にも上るという。

単純にいえば「5人に1人の確率」とは、あなたが65歳以上で両親も存命なら、3人のうち誰かが認知症になる確率が60%ということである。もし同年輩の配偶者やその両親もいれば、そのうち1人は必ず認知症になるということだ。

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認知症の家族をもつ者の苦しみは、筆舌に尽くしがたい。最近は認知症者の運転による交通事故が社会問題となってきているが、ハンドルを握れなくなるのは、認知症の症状としてはまだ初期段階である。やがて記憶が次々に失われ、夫や妻、子どものことさえわからなくなる。

幻覚、暴言、暴力がみられはじめ、愛する人がまったく別人格になっていくショックは家族にとって耐えがたいものだ。さらに症状が進み、ところ構わずの排便や、夜中に一人で外出する徘徊が始まれば、介護者はもうまともに眠ることさえできなくなる。

 

政府は認知症者をなるべく在宅で介護することを推奨しているようだが、この段階に至ってなお在宅介護を続けることは、家族にとっては「地獄」にほかならない。しかし、特養老人ホームなどの介護施設に入所させようにも慢性的に数が不足していて、1年も2年も順番を待たなければならない場合もある。

介護のために働き盛りの人が仕事を辞めざるをえなくなる介護離職から、果ては心中や殺人といった痛ましい事件まで、認知症介護がもたらす悲劇があとを絶たないのは当然ともいえるのだ。

このまま2025年に予想される状況を迎えたら、日本社会は巨大地震にも匹敵するダメージをこうむることになるだろう。

正常に発達した知能が、脳の後天的な障害によって正常なレベル以下に低下した状態

あらためていうと認知症とは、脳のこのような症状の総称である。ただし、認知症とはあくまで「症状」を表す言葉であり、その原因となる「疾患」はいくつかある。
たとえば、脳梗塞や脳出血によって脳血管障害をきたすことで認知機能が低下する「血管性認知症」の場合は、適切な措置をすることで進行をくいとめ、治療できる可能性がある。

しかし、認知症の原因疾患として最も多いのは、脳が少しずつ萎縮していくアルツハイマー型認知症、いわゆるアルツハイマー病である。とくに高齢者が深刻な状態に陥る認知症のほとんどはこのタイプのため、認知症とアルツハイマー病を同じものと考えている人も多い。

根本原因も分からず治療法もない

アルツハイマー病は1906年にドイツの精神科医フロイス・アルツハイマーが、記憶障害と妄想の傾向がある50代の女性を診療したことがきっかけで発見された。その女性はつねに夫の浮気を疑っていた。死後にその脳を解剖したところ、「老人斑」「神経原線維変化」などの明らかな病変が見られた。しかし、その理由はわからなかった。

それから110年が過ぎたが、アルツハイマー病がどのようにして引き起こされるかは、実はいまだにはっきりとした結論は出されていない。したがって、有効な対策も見つかっていないままだ。

要するに、迫りくる「超・超高齢化社会」の脅威に立ち向かうには、このアルツハイマー病を日本人にとっての「国民病」ととらえ、なぜ発症するのか、どうすれば克服できるかを考えていくしかないのである。

アルツハイマー病の家族の介護経験がある人なら、「アリセプト」という薬の名前は聞いたことがあるかもしれない。米国のファイザー社と日本のエーザイが共同で開発し、1996年に米国で認可された「ドネペジル」の商品名だ。

このドネペジルこそが、アルツハイマー病発見以来90年目にしてようやく実現した治療薬と期待され、一時は「救世主」のようにももてはやされた薬剤だった。その開発研究中、エーザイは「エーザイ不夜城」ともいわれ、午後5時に退出すると「早退扱い」にされたという“伝説”も残っている。開発を主導した杉本八郎氏(現・同志社大学教授)は、創薬界で最高の賞といわれる英国のガリアン賞特別賞を受賞した。

しかし、残念ながら――ドネペジルはアルツハイマー病の原因を根本から断つものではなかった。病気の進行を遅らせることさえ難しく、物忘れに対して一定程度の効き目があるのみにすぎなかったのである。