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現代新書

学校では習わなかった…日本を襲う「悲劇的な未来」を回避する方法

「未来から見た日本」と「過去から見た見本」

日本が後を追うアメリカという国を通して見える「未来」と、日米の法的構造の歴史を紐解くことでわかる「過去」――。この国の「悲劇的な未来」の訪れを食い止めるためには、そのふたつを知っておくことが重要だという。最新刊を上梓したばかりの堤未果氏(『増補版 アメリカから〈自由〉が消える』扶桑社新書、『核大国ニッポン』小学館新書)と矢部宏治氏(『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』講談社現代新書)による対談。

どうすれば「見抜ける」のか

矢部: ぼくは以前から、堤さんのご本とそれからご発言は、かなり細かくフォローしてるんです。

堤: そうだったんですね! ありがとうございます。

矢部: これ(堤さんの著作)は今日持ってきたんですけれど、全部自分の本です。数冊、読んでない本もあって、今回買ったものもありますけれど。

堤: たくさん折り目が付いていて、光栄です。

矢部: 今回刊行された『増補版 アメリカから<自由>が消える』(扶桑社新書)もそうですが、堤さんの本や発言のいちばん素晴らしいところは、他の誰も言っていないことをズバッと、何のためらいもなく発信される。聞いたほうは「ええー!」ってびっくりするんですが、あとになると、それは事実だったということがわかるわけですね。

去年のアメリカ大統領選のときが、まさにそうでしたね。日米のメディアや評論家がみんな「もうヒラリーに決まった」って言っていた選挙終盤で、堤さんは「いや、まったくそんなことはありません。まだトランプが当選する可能性は非常に大きい」と、はっきりおっしゃっていました。ああいう発言の背景というのは、いったいどういうことなんですか?

堤: 一言でいうと、今までの歴史的経緯と現場取材で五感で感じる実感の2つです。
矢部さんの新刊(『知ってはいけない――隠された日本支配の構造』講談社現代新書)のゲラ、これ私5回読ませていただいてボロボロになっちゃってますけど、この本全体の根底にあるのも同じものですよね。

1つの現象を点で見るのではなく、長いスパンで線でつないで大局をつかむこと。2016年のアメリカは大きく変わる寸前の過渡期でした。世論の作り手だったはずのマスコミによる、反トランプ報道とヒラリー礼賛がなぜ国民を逆方向に向けたのか。

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その背景にはイラク戦争や、幻想が壊れたオバマの8年があった。そして現場の熱気、都市と地方の温度差、財界と党本部の癒着、情報の寡占化、主要マスコミを支える資金の出所、国民のワシントン金権政治へのアレルギーや、産業の変化、裏側にいるキーパーソンの動きなど、さまざまな要素が絡み合い、サンダースは党内で潰されるだろうから今回はトランプだろうなと。

矢部: もう確信があったわけですね。

堤: はい。でも、たとえば2016年春にも私がそう発言した記事が出ましたけど、まあ、日本国内の反応は鈍かったですね。トランプは泡沫候補扱いだったし、何ねぼけたこと言ってるんだ、という感じでした。

 

矢部: 昨年7月に出た『政府はもう嘘をつけない』(角川新書)という本にも、「トランプが当選する」なんていうことはもちろん書いていないけれど、1%の超富裕層と99%の貧困化するアメリカ市民との対立の中で、今回の大統領選はサンダースやトランプを選ぼうという熱気がすごいということは、はっきり書かれていますね。

堤: ええ。日本でも多くの人が候補者個人ばかりみて分析していましたが、結果を決めるのは個人の力量や人間性よりもっと別の要素なのです。最後にトランプを押し上げたあのうねりを生み出した原因の方は、過去からの続きとしてすでにアメリカ国内に存在していました。

だから、私の一連のアメリカシリーズを読んでいる読者は、「トランプの人間性は嫌いだけど、ヒラリーが落とされた理由は堤本を読んでいたからよくわかる。やっぱりなと思った」と。あとは、少ないけれどアメリカの現場を足でまわっていたジャーナリストたちは、もちろん日米の主要マスコミとは逆の結果になることを見抜いていましたね。

市場にのみこまれた「ジャーナリストの誇りと倫理」

矢部: 堤未果さんといえば、やっぱりこの2008年の『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)が大ベストセラーになったわけですが。

堤: ありがとうございます。

矢部: このときぼくの友だちの新聞記者なんかも、やっぱりすごいショックを受けて、要するにそれまでワシントン発じゃないアメリカ政治の情報というのは、日本にはほとんど伝わってなかったことを知ったと言っていました。それを堤さんは丹念に地方を回って取材され、困窮する弱者たちの声に耳を傾けて、この本を書かれた。その後も徹底的して庶民の目線から取材されているということですね。

堤: 『ルポ 貧困大国アメリカ』が出た当時も、岩波編集部への反響がすさまじくて、半分くらいは「これは自分の知っているアメリカじゃない」「アメリカがこんな国な訳がない」というショックの声が多かったですね。

矢部: それはぼくの本も同じですので、よくわかります(笑)。

堤: 今まで日本国内で流れていた自由で壮大で夢のある明るいイメージと180度違うアメリカのもう1つの顔は、すぐには受け入れられなかったですね。