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エンタメ

「神」と呼ばれる棋士は、並みの天才棋士と何が違うのか

生き様、戦法、それとも若さ?

将棋に狂い、狂わされて…

将棋の藤井聡太四段の活躍は、羽生善治三冠の七大タイトル全制覇以来、約20年ぶりの衝撃だ。

プロ棋士になるには、まず奨励会に入り、26歳までに最終関門の「三段リーグ」を勝ち抜いて四段にならなければならない。基本的に1年に4人という狭き門で、神童と呼ばれてきた若者たちがしのぎを削る。

将棋の子』は、小説家で元日本将棋連盟職員の大崎善生氏が、奨励会員たちの人間ドラマを鮮やかに描き出したノンフィクションだ。

将棋の子

年齢制限という塀の上で、奇跡的な星の巡り合わせによりプロになった者もいれば、不運としか言いようのない去り方をする者もいる。

人生の序盤で退路を断たれる若者の姿が、圧倒的なリアリティを持って読者に迫るのは、鋭い観察眼と色気のある文章、時系列を巧みに操る構成の妙、そして、将棋に魅せられた人たちへの、大崎氏の愛情が根底にあるからだ。真の愛は厳しさに宿ることを教えられる。

 

作品の軸は北海道出身の大崎氏と、同郷、同世代である天才少年との運命的な結びつきにある。少年の夢に懸けた家族、「羽生世代」の台頭、迫りくるタイムリミット、家族との別れ、挫折、帰郷、転落、大崎氏との再会―。終盤、夢破れて奨励会を退会する若者に贈られるというひと組の駒が、「甲子園の土」の役割を果たして胸が詰まる。

プロ棋士も恐れる男

私がデビュー作『盤上のアルファ』を執筆する際、大きな影響を受けたのが、団鬼六氏が書いた『真剣師 小池重明』だ。

真剣師とは今は亡き賭け将棋を生業にする者のことで、小池ほど破滅型の人生を美しく生きた男はいない。金のかかった対局では異常な勝負強さを発揮し、序盤は躓くが、徐々に妖しい局面に誘導し、最後には逆転してしまう。が、私生活では、人生が上向くと必ず女で失敗する。

小池は1947年に名古屋市内で生まれた。高校で将棋に出会い、2年生のときに、大学生を相手に常識外れの賭け将棋を仕掛けて道場を破門、高校も中退した。

売春宿の番頭を皮切りに、様々な職業に就きながら将棋を続けるも、雇い主の妻に手を出したり、葬儀会社にいたときは客の未亡人と駆け落ちしたりして、プロ入りの話を棒に振る。駆け落ちの際は大抵、職場の金をくすね、寸借詐欺まがいの金集めをしたことでも信用をなくしていく。それでも、将棋は異常なほど強かった。

プロ棋士に対し勝利を重ね「新宿の殺し屋」の異名を戴き、伝説の真剣師「鬼加賀」こと加賀敬治との「通天閣の死闘」を演じて事実上これを制した。アマチュア名人戦では対局当日の朝まで飲んで、迎え酒の缶ビールを片手に予選を勝ち抜き、そのまま全国制覇。

圧巻なのは、あの大山康晴15世名人を相手に、角落ちのハンデ戦ながら勝利を収めたことだ。しかも、前日に泥酔して暴力事件を起こして逮捕され、留置所から対局室に向かったというのだから、もう言葉もない。