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エンタメ 週刊現代

ミスター宇宙兄弟・向井医師が70歳で感じた「生きてて良かった」

読まずして死ねない10冊の本

僕のなかの「不動の書」

1位から3位は不動ですね。その中でもやっぱり断トツは『楢山節考』。明治以降の日本の小説の中で最高傑作だと私は思っています。

最初に読んだのは中学生のときだったと思うけど、頭を殴られたような衝撃がありましたね。

「親を捨てに行く」っていうヘビーな話なのに、文体は徹底的に乾いていて、安易なセンチメンタリズムとは一線を画している。深沢七郎の作品は色々読んでみたけど、ああいう文体で書いているのは『楢山節考』だけです。きっといろいろ考えて、わざとやったんだろうなア。

若い頃って、「時間は永遠で、生は無限に続く」ように感じちゃうでしょ。そういう年頃に「人間は誰でも必ず死ぬんだ」っていう厳然とした事実をまざまざと突きつけてくる作品を読んでみる意味は小さくないでしょう。

 

私は映画が大好きですけど、この作品の乾いた文体が醸し出す淡々とした雰囲気は、決して映像では再現できない。これぞ「言葉の力」「文学の心」という作品です。

2位『マノン・レスコー』は元祖恋愛小説。

真面目を絵に描いたような騎士デ・グリュウが奔放な娼婦マノンに惚れ込んでしまう。ヒドいことをたくさんされて、諦めたほうが絶対イイのに、冷静な判断ができなくなる。「愛」ではなく、「恋」だから厄介なんです。

3位はシェイクスピアの『オセロー』。

人間の奸計がいかに醜いか、そして、いくら勇敢な人間であっても、嫉妬の前にはいかに脆いか。

大学では演劇部に入っていたので「いつかオセローを演じたい」って思っていたんだけど、シェイクスピア作品の上演はなかなか大掛かりで骨が折れるので、実現できなかった。

考えたら、1位から3位はぜんぶ10代に読んだ本。若い頃に大きな「教訓」を与えてくれた本っていうのは、生涯忘れられないもんですね。

医師としてイチオシの一冊

小説と同じように大好きなのがノンフィクション。超一流のノンフィクションって、世間で傑作と言われる小説と同じくらい面白いんです。

8位の『ワンダフル・ライフ』はカナダで見つかったバージェス頁岩の化石から、生物の進化の途方もない歴史を読み解いていく。

出版からだいぶ時間が経って、間違いも指摘されているけど、そのくらいの瑕疵はこの本が与えてくれる知的興奮の前には些細なこと。

女房の1回目の宇宙飛行('94年)のときに乗組員仲間だったリック・ヒーブっていう飛行士もこの本の著者であるスティーブン・グールドの大ファンでね。宇宙飛行士って、「絶対持っていきたいもの4つ」を宇宙に持っていけるんだけれど、リックはその中の一つにグールドの本を選んでいた。アメリカではそれほど大きな影響力をもっている作家なんです。