中国

スマホ国家・中国で起きた「サイバー三河屋」大暴動の顛末

刃物、棍棒、大乱闘!
安田 峰俊 プロフィール

洪水発生でも気温40度でも街に突撃

もっとも、「サイバー三河屋」の配達員がしばしば暴動を起こす背景には、中国における彼らの社会的地位が低すぎることや、イライラが溜まりやすいハードな労働環境も多少は関係している。

例えば、スマート出前がオーダーされるのは、普通の人が外食をしたくない天候のときが多くなる。気温が40度を上回る酷暑やマイナス40度に達する酷寒、滝のようなスコールや猛吹雪、凄まじい大気汚染など、広大な中国大陸の屋外環境はしばしば苛烈だ。加えて中国の都市は水はけが悪く、少しの夕立ちでもすぐにプチ洪水が発生するのだが、そんな状況だと出前の注文はむしろ増える。

 

特に今年の夏は記録的な暑さだ。出前に出かけるスタッフのため、例えば「餓了么」は配達員の詰め所にスイカや漢方膏薬、漢方栄養ドリンクなどを準備して健康に配慮(?)しているそうだが、文字通りの焼け石に水である。。

加えて、えげつないことに中国は極度の格差社会であり、肉体労働者の立場はしばしば軽視される。高級住宅街やオフィスビルなどでは、たとえ大嵐や酷暑の日でも配達員が建物内に入ることを禁止し、なかには建物の影で日差しを避けることすら禁じられた例もネット上に投稿されているほどだ。

オフィス街の駐車場。日陰にすら入れてもらえずに待たされる配達員。現地報道より

スマート出前には、顧客側が店舗側に「いいね」を付けたり評価を書き込んだりするシステムがあるため、配達員は通常のデリバリーサービス以上に絶対に時間に遅れるわけにいかず、また配達先の機嫌を損ねるような振る舞いも控えがちになる。

結果、炎天下のオフィス街の駐車場で出前相手を延々と待つような、大変な苦労を余儀なくされるわけだ。自分を高圧的に追っ払おうとするガードマンや、対立するグループの配達員に怒りのはけ口を求める心理もわからないでもない。

「サイバー三河屋」で働くのは、地方から単身で出てきてキャリアもない独身の男性というケースも多い。寄る辺なき彼らが頼れるのは、同じ苦労を味わう黄色なり青なりのグループの仲間だけだ。彼らはそれゆえに仲間内で結束し、仲間のピンチにはとりあえず駆けつけてみんなで闘う侠気を持って暮らしているわけである。

中国では前近代から現代にいたるまで、運送労働者や炭鉱労働者などのブルーカラー層の人たちが同業者同士で相互扶助の秘密結社「幇(バン)」を作り、賃金交渉や暴動などの際に猛威を振るうことが知られてきた。

例えば、17世紀に明王朝を倒す大反乱を起こした李自成軍も最初は陝西省の運送労働者のグループだったし、中華民国時代に中国最大の秘密結社として知られた「青幇(チンバン)」も、もとは運河の水運労働者の同業者組織であった。

こうした中国社会の伝統はスマホ時代になっても変わらず、スマート出前の配達員たちも仲間内で「幇」に近い結束を結んでいるようだ。スマホでオーダーされた出前を運ぶ彼らがいざ外部とトラブルとなったときは、チャットアプリで仲間を一斉に呼び集めて「スマート暴動」を実行――。これがイノベーション著しい現代中国における、闇のトレンドなのである。