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フェラーリ2000台を診た日本人が語り尽くす「赤の真髄」

だから人はこの車に魅せられる
平澤 雅信

一方で、手作りのデメリットもある。面積が大きいボディー外板などの部品は、手作りでは精度が確保できず、組み立てながら辻褄を合わせる修正作業が多い。それゆえドアや脱着式のルーフなどの開閉部を完全に密封するには至らないことがあり、それが原因で不具合が起こる。

たとえば雨漏りや走行風が室内に侵入することで起こる風切り音。ボディーと取り付け部分のクリアランスが一定でないために起こる、ダッシュボードの軋みなど。

手作りの外装部品は、部品として完成した状態でも、大体同じような形をしているといった程度の仕上がりで、交換時には削ったり形を修正したりは当たり前という、量産車では考えられない膨大な手間が発生する。

こういった問題が解消されるのは360以降であるが、溶接痕を削り落してから塗装する箇所は、現在のモデルでも存在するので、昔ほどではないにしても手間はかかり、それがフェラーリの板金修理は部品代だけでなく工賃も高い原因となっている。

要は、手作業でしかなしえない造形で格好よいのだから、多少のことは仕方がない。補修も、組み立てた時と同様な職人技が必要ということだ。

「走行距離5万km」に達すると…

フェラーリのエンジンは、定期的にメンテナンスし、部品交換することを前提に高性能を実現している。性能を落として長寿命にするのではなく、部品のライフが短くなることには目をつぶった、レーシングカーの発想に近い。今までの経験からすると、360以前のV8で高回転を多用した場合、エンジン本体の圧縮落ちなどで分解整備が必要になる節目は、ずばり50000kmだ。一般的な乗用車では考えられない距離である。

理由は単純で、一般的な乗用車の1.5倍も高速回転するエンジン内部は、同じ走行距離でもピストンリング等の部品は、1.5倍以上のペースで摩耗するからだ。

4.5リッターV8エンジン(Photo by getty images)

また、「高出力=発生する熱が多い」ので、エンジン周辺に使われている、ゴムや樹脂で出来た部品の寿命も短い。常用で8000回転オーバーの高出力エンジンを作るのは大変なことで、その引き換えで定期的な分解が必要なのは仕方がない、ということだ。

 

内外装の部品は、新車時の見栄えを優先し、後の耐久性まで考慮されてない素材を選択する傾向である。

代表的な例を挙げると、前後グリルやボディー下部など、艶消し黒で塗装してある部分、室内のスイッチ類、最近ではエンジンルームのカーボン部品など。いずれも新車時の美しい状態を保てる期間は短く、特に屋外保管すると劣化が激しい。艶消し黒の塗装やカーボン部品は白っぽく変色し、スイッチ類は表面の塗装が溶け出しベタベタになる。

最初の状態が端正で美しく、また目に付くところだけに、劣化した時のギャップは大きく、痛々しさは他メーカーの車の比ではない。

修復するには、一般的な車よりも早いサイクルで再塗装や高額部品の交換を伴い、これもメンテナンス費用が嵩む要因となっている。フェラーリは単なる道具ではなく、美しい工芸品でもあるので、最高の状態をキープしたいオーナーさんが多いということもあって、お金がかかるということもある。