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フェラーリ2000台を診た日本人が語り尽くす「赤の真髄」

だから人はこの車に魅せられる
平澤 雅信

現在は、スペチアーレ(Speciale、特別仕様車) 以外で12気筒のミッドシップは生産されていないので、V8はミッドシップの運動性を活かし、12気筒とは違うキャラクターで定着している。昨今のV8のパワーは1世代前の12気筒同等にまで高められ、よりピュアなスポーツカーを追求している。

高回転・高出力というスペックだけではなく、ドラマティックに回転が上昇する演出がうまく、もっと回せと車の方から急きたてられるのもフェラーリエンジンの特徴だろう。

数値化できない高揚感

数あるスポーツカーのなかで、ゆっくり走ってもスポーツカーらしさを実現するスペシャル感の演出にかけて、フェラーリに勝る車はないと断言する。

仕事柄、フェラーリ以外のスポーツカーも運転する機会は多いが、いつも感じるのは、他社のスポーツカーは、ゆっくり街中を走っている時は普通の乗用車でしかないということ。特に日本車とドイツ車はそう思う。

では、具体的に何が違うのか?

まずは、エンジン音と排気音。これはスポーツカーとして、とても大事な要素だ。多気筒の高回転型エンジンに拘るだけでなく、エンジンの存在を主張する作り込みもされている。

 

低回転域でも、フェラーリサウンドが鳴り響くのだ。どの回転域でも、排気音はこもることなく、室内まで響いてくる。単に排気音が大きいというのではなく、意外にもゴムを多用し振動を吸収するマウント類や、実は多く使われているボディー吸音材などの効果で、余計なメカニカルノイズや振動を遮断した上で、純粋な排気音だけ抽出して聞かせているからだと思う。

ドライビング・ポジションも、まさにスポーツカーのそれだ。高く配置されたダッシュボードと低いシートポジションが相まって、運転席におさまると適度にタイト感があり気持ちが高ぶる。目線がとても低く、路面を近くに感じる。

多少重めのパワーステアリング、セミオートマシステム(F1システム)の独特な作動、マニュアルもシフトゲート付きのため、最初は難しく感じる変速など、操作系には癖がある。しかし、練習してこれらの操作がうまくできるようになると、楽しみは倍増する。こういった、ちょっと難しい動作を求めるあたりは、誰でも簡単を求める顧客第一主義の国産車とフェラーリを大きく隔てる部分だろう。

フェラーリは、数値化できないであろう運転時の高揚感を、車を設計・生産する上での、作り込みやセッティングの基本に据えているのだ。

意外と「普段使い」で乗りやすい

意外かもしれないが、一般的なスポーツカーのイメージよりも、フェラーリのサスペンションはソフトで、乗り心地がよい。最近ではメルセデス・ベンツの方が、体感でサスペンションの動きが固く感じられるくらいだ。比較的柔らかいスプリングを用いて、車高が低いためストロークは限られているが、そのなか最大限にサスペンションを動かす方向でセッティングされている。

あと特筆できるのが、意外に視界がよいこと。大体の車種でフロントと両サイドのガラスは、シートに座った時の肩位置よりも下まで伸びている上、Aピラーが細く、視界を遮る面積が少ない。ルーミーという表現がピッタリで、室内は明るく、後方以外は周りもよく見える。

599GTBフィオラノの車内(Photo by getty images)

前進だけに限れば、目線が低いだけで視界の広さは普通の乗用車と大差ない。他メーカー、特にランボルギーニは上半身にも圧迫感があり、室内も暗く感じるのとは対照的だ。

下半身のタイトさで包まれた安心感をもたらし、ガラスエリアの広さで視界を確保し、上半身の開放感をもたらしている。その上でデザインも両立させているから、作り込みのレベルは相当高い。