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不正・事件・犯罪 週刊現代

伝説の刑事たちが実名で語る「警視庁 捜査二課」その栄光と蹉跌

なぜ「汚職」の摘発が激減しているのか

未曾有の公金詐取事件に挑んだ刑事を克明に取材した『石つぶて』が話題だ。汚職摘発に執念を燃やす無名の士たちの生き様は胸をつく。著者の清武英利氏が、最前線にいた刑事たちを訪ね歩いた。

サンズイこそが国を滅ぼす

「ナンバー」と呼ばれる警視庁捜査第二課の刑事たちが、大型事件の情報を東京地検に提供していた時代があった。人海戦術でつかんだ事件と手柄を検事たちに〝上納〟する、そんな力と余裕があったのである。

それほどの情報収集力を誇った二課刑事たちがいま、汚職を摘発できずに喘いでいる。彼らをネコに例えれば、ネズミを捕れなくなっているのだ。

その異変の原因を聞こうと、これまで霞が関や官邸を驚嘆させた警視庁の元刑事たちを訪ね歩いた。

捜査二課で「仕上げの名人」、「仕事師」などと異名を取った名うてのOBたちが、考えにふけりながら率直に答えてくれた。いずれも、旧厚生省の岡光序治事務次官福祉汚職事件や外務省機密費詐取事件を摘発した、ヤマネコのような男たちである。

「捜査二課はサンズイ(汚職)が柱なんですよ。サンズイこそが国をも滅ぼすと、私たちは叩き込まれてきた。それが僕らの命だったから、挙げられないと、何のためにいるんだということになりますよね。

主任を束ねる係長(警部)こそが大事で、それがトロトロしていたら、私は『どの面さげてやってるんだ』と後ろから気合をかけますよ。

係長として一年に事件を一件も(立件)できなかったら、腹切りものです。一年ぼーっとしていたら、こんなにみじめなものはありませんよ。職人の親分なんですから」

 

そう語るのは、捜査二課管理官時代に、岡光厚生事務次官汚職事件をまとめ上げた岩上勝一(75歳)である。係長時代にも、「千葉県成東町長らのゴルフ場開発汚職」や「海外協力事業を巡る汚職」をまとめ、癖の強い刑事たちに「神様」のように敬愛されていた。

ちなみに、サンズイとは汚職の「汚」のサンズイを取った隠語で、警視庁ではサンズイ捜査にあたる主要な捜査グループには「第四知能犯」「第五知能犯」などとナンバーが振られている。

捜査二課と言えば「ナンバー」、ナンバーと言えばサンズイ担当を意味したのだが、岩上は巡査部長から主任、係長、管理官、そして捜査二課で序列2位の理事官(序列1位はキャリアの二課長)と、全ての階級を通じてナンバーに在籍し、南千住署長で退職している。

本題に入る前に、岩上も感じている捜査二課の摘発実態の低迷を示しておこう。次頁の表をご覧いただきたい。これは、警視庁発表の『刑法犯の罪種別検挙件数(年次別)』から、賄賂の検挙件数を抜粋しグラフにしたものである。

2002年に32件もあった検挙件数は、翌'03年には16件に半減した。2005年以降は一桁が続き、2011年と2014年はわずか1件に過ぎない。

特に象徴的なのは2014年である。実はこの年、捜査二課としては過去30年間で初めて「年間摘発ゼロ」を記録していた。

グラフにした「賄賂検挙件数」の中には、交通違反の目こぼしを狙った「贈賄申し込み」など、捜査二課が摘発する汚職とは性格を異にする賄賂犯罪も混じっている。

2014年の1件というのは、警視庁交通捜査課が、不正車検で自動車検査員(みなし公務員)を逮捕した事件なのである。だから、これを除くと二課は摘発ゼロだったことになる。

さすがに翌2015年は奮起したのだろう、国交省係長や厚労省室長補佐らによる3件の贈収賄事件を摘発したが、2016年は1件に終わっている。

今年は7月に成田国際空港会社の物品契約汚職で元上席執行役員らを逮捕しているものの、事件は小型化し摘発が壁に突き当たっていることに変わりはない。

――なぜだと思われますか?

「一つは、二課刑事が(振り込め詐欺など)特殊詐欺などに追われているのではないか。その摘発を求める要請もあります。難しい時代になっています。

〝お得意さん〟、つまり情報をもらえる人間が少なくなりました。全国的にネタ取りが難しくなっています」

警視庁だけが汚職を摘発できないのではない。全国の道府県警や検察庁も同様な傾向にある。

警察庁資料によると、1972年には全国で164件の汚職摘発があり、それ以降も減少はしたが2004年でも72件あった。

ところが、2009年に38件を記録し、50件台を割ってしまうと一気に下降し、2013年には過去最低の25件の摘発最低記録を作った。年間に一つも汚職の発覚がないという県警は珍しくなくなった。