オリンピック 週刊現代

本物のヤクルトファンに学ぶ「負けても怒らない」精神

1勝の喜びを噛みしめる幸せがある
週刊現代 プロフィール

人生、負けることもある

'80年代のスワローズをよく知る、ニッポン放送の煙山光紀アナウンサーは語る。

「僕は'78年、高1の時にヤクルトが初優勝を決めた時のチームが大好きになり、ファンになりました。そのまま日本一になったところまではよかったのですが、翌年は開幕から8連敗し、いきなり最下位。

シーズン中に広岡達朗監督が辞任した時は、布団にくるまって悔し泣きをした覚えがあります(笑)。でも、それ以来は『たまに巨人に勝ってくれればいいな』と気楽に応援するようになりました。

以来ヤクルトは5回日本一になっていますが、ジャブジャブお金を使って戦力を揃え、日本一をかっさらったことは一度もありません。今持っている戦力のなかで、知恵を使い、いろんな方法で勝つ。

今年は例年以上に苦しんでいますが、山田の打順を替えてみたり、ストッパーを試行錯誤したりと、むしろボロボロのなかでよくやっているな、という気持ちで見ていますよ」

 

そんな懐の広いファンが多いスワローズだが、7月7日の広島戦で「事件」が起こった。5点リードの9回表、新守護神に指名された「ライアン」小川泰弘が大炎上。逆転負けを喫したのだ。

これに怒った一部のファンは、ダッグアウトから引き揚げる真中満監督に心無いヤジをぶつけた。彼らのフラストレーションはこれに収まらず、神宮クラブハウスの入り口を取り囲み、真中監督に謝罪を要求し、警備員が制止する一触即発の状況となった。

だがこのような暴動騒ぎが起こるのは珍しい。

ヤクルトファンで画家・タレントの城戸真亜子氏は今回の騒動について次のように語る。

「負けが続くのは残念ですが、だからといって暴動騒ぎを起こすようでは、ヤクルトファンらしくないですね。

私自身、ヤクルト戦を現実に置き換えて『人生、負けることがあるのは当然』と思って応援しています。ケガ人が早く一軍に戻ってくることを祈り、その間に若手が来シーズンに繋がる活躍をすることを期待する。連敗しているときこそ応援するのが真のファンのプライドです」

14連敗という長いトンネルから抜け出したのは7月22日の阪神戦でのこと。それから4日後、26日の中日戦には、借金続きのチーム状況にもかかわらずレフトスタンドまでヤクルトファンが詰めかけた。

そんななか、一時は10点差まで開いた試合をひっくり返し、2夜連続のサヨナラ勝ちを収めたのだ。

ドラマティックな幕引きとなったが、阪神ファンのように狂喜乱舞はせず、粛々と勝利を噛み締める。

「他の球団だと、監督が名指しで選手を批判しますが、ヤクルトの首脳陣は選手をかばう。甘やかしているわけではなく、選手といい距離感が取れているのだと思います。

これはファンとの距離感にも言えますね。優勝した時も、一緒にまとまって、チームを勝たせるために応援するというより、バラバラに楽しんでいます。

スタンドでは東京音頭で揃いの雨傘を持って踊っているように見えますが、強制されることなく、みんな思い思いに野球観戦しているだけなんですよ」(前出・煙山氏)

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東京音頭に合わせ、ビニール傘片手に気ままに踊る姿は、まさしく自由なヤクルトファンのスタンスを象徴している。

静かに応援していた女性ファンが、得点が入るとカバンからおもむろに傘を取り出して淡々と振り、ひとしきり終わるとカバンにしまう。そんな光景を目にするのも神宮球場ならではだ。

外野スタンドでも、応援団から「こういう動きを全員でしろ」と言われるだとか、そういった決まり事は特にない。