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週刊現代

ヒアリの日本進出が、アリ界も「国際化」している証拠だとしたら

椎名誠流「科学のヨミカタ」

自身初のサイエンスエッセイ『ノミのジャンプと銀河系』を著した椎名誠さん。大の科学好きの椎名さんの「なんでそうなるの?」という長年の疑問や驚きをギュッと詰め込んだ一冊です。科学のおもしろさを存分に語っていただきました。

人間vs.アリの全面戦争

―これまで数多くの著書を書かれてきましたが、科学を切り口にしたものは初の試みです。

20代の頃から、パタゴニア、モンゴル、シベリア、アマゾン、極地といった辺境地に出かけていたぼくは、そうした場所で出会うヘンなもの、ヘンな体験に「これはいったい何だろう」と考えることがたびたびありました。そんなことから専門書、特に自然科学の本をよく読むようになった。

この本には、そうしたぼくの長年の疑問や驚きを詰め込みました。

全部で11話からなる本ですが、例えば「速さ」をテーマにしている第3話なんかは、北極圏の狩りに必要な走力の話をしているうちにオリンピックの話になり、植物や寄生虫の成長スピードの話に続く。どの話もこんなふうに、縦横無尽の内容になっています。

 

―人間も四つん這い走行を本気で追求したり、えら呼吸で泳げるようになれば新記録が出るだろうなどという話が次々と出てきて、楽しいです。

専門書によると、だいたい7~10世代経ると環境に対応して生体機能が変化するという考え方がある。だから人間も、水中生活を続けたらえら呼吸になるとかメタモルフォシス(変容)があってもおかしくない。そう考えると、世界は面白いじゃないですか。

最近、ヒアリが話題になりましたが、あれも国際化しているのは人間界だけじゃない、アリ界も国際化しているのだと考えると面白い。アリについては、世界中のアリをすべて足した重量と、世界中の人間の重量がほぼ同じだという説があるんですよ。未来には、人間対アリの全面戦争があるかもしれないね(笑)。

馬はジープよりも強い

―本書の魅力のベースには、ご自身の実体験があるように思います。例えば「馬」がテーマの回は珍しい話だらけでした。

パタゴニアの氷河の近くでジープから馬に乗り換えていたら、案内人が何か叫びだしたんです。慌てて馬にしがみついてすぐに疾走したところ、数分後にものすごい轟音とともに氷河雪崩が起きました。ジープだったら焦りでエンジンを掛けるのにもたついて、命がなかったかもしれない。場合によっては馬は、ジープより強いんだな。

馬文化が深いモンゴルには、何度も通いました。馬の去勢現場も見たけれど、馬の四肢を縛り上げてナイフで睾丸を切り取るんですよ。それが確実な方法だからなのだけれど、凄絶な光景でした。

また、モンゴルでは馬の分類も詳細です。馬齢や毛色や骨格ほか、ランク付けもあって数十種類が一覧表になっている。不思議なことに、同じ馬文化があるパタゴニアではそんな分類はなく、馬は単に「馬」。国によってそうした文化的な違いがあるのも興味深いのです。

―「シベリアの川には橋がかけられない」なんて、現場を見ないと理解しがたい話もあります。

冬季に全面凍結するため、橋脚が必要な橋は造れないんですよ。春になったら何十トンはある氷塊がごろごろ流れてきて、橋脚などなぎ倒してしまう。レナ川は日本列島くらいの長さがあるけれど、橋はひとつもありません。それでいて、極寒期には凍結した川の上を10tくらいのトレーラーが行き来しているんだから、寒い土地には寒い土地の「不思議」があります。