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防衛・安全保障

飛行機を中心にあの戦争を振り返ると、新たに見えることがある

なぜ始めたのか、なぜ負けたのか

今年もまた終戦の日がやってくる。日中戦争、日米戦争に関する本はこれまでも多くあるが、今回、飛行機に着目して、第一次大戦以降終戦までの歴史を捉え直した決定版ともいえる本が講談社現代新書から刊行された。『飛行機の戦争 1914-1945――総力戦体制への道』である。

戦前、そして戦時中に人びとは飛行機に何を託したのか。なぜ人びとは進んで飛行機にヒト・カネ・モノを提供したのか。著者一ノ瀬俊也氏にインタビューした。

『飛行機の戦争』はじめにはこちら→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52355

なぜ「飛行機の戦争」なのか

――2015年に『戦艦大和講義』(人文書院)、2016年に『戦艦武蔵』(中公新書)と、一ノ瀬さんは、近年、戦艦から戦争や昭和を捉え直す仕事をされてきました。

今回、現代新書から刊行した『飛行機の戦争 1914-1945』は、飛行機が主役です。なぜ飛行機をテーマにしたのでしょうか?

戦艦大和や武蔵は21世紀に入っても非常に人気があり、昨年武蔵が海底で発見されたときにも大きな反響がありました。前著で調べたかったのは、なぜそんなに人気があるのか、という単純な疑問への答えです。

わかったのは、戦艦大和と武蔵はいわば陰と陽の関係にあり、大和が悲惨な戦争に対する救いの面を、武蔵が救われなさの面を体現してきたということです。大和は吉田満『戦艦大和ノ最期』が描いたように、日本人が敗れて目覚めるための尊い犠牲扱いでしたが、武蔵にはそういう美しい物語はありませんでした。こうした物語の有無が、両者の人気の差となって現れています。

左:戦艦大和、右:戦艦武蔵(Photo by creativecommons)

ところで戦艦について調べていくと、戦後の日本ではたしかに零戦(零式艦上戦闘機)などは人気がありますが、戦争自体は戦艦の戦争として描かれ、大和も武蔵も時代に取り残された悲劇の人物のような扱いをされています。ほんとうはこれはおかしいんですね。

戦前に書かれた海軍の解説書を読むと、これからの戦争は飛行機だ、みたいなことが普通に書いてあるし、実際の戦争も零戦など飛行機が主役でした。どうして飛行機の戦争が戦艦の戦争に書き換えられているのか、という疑問を解くためにこの本は書かれています。

 

――昭和の戦争というと、「大艦巨砲主義」という言葉を思い浮かべる人が多いと思います。時代遅れの戦艦に固執した結果、飛行機主体のアメリカに負けたというのが通説かと思いますが、実態はどうだったのでしょうか?

大和型戦艦の建造が計画された昭和初期、世界のどの一流海軍も「大艦巨砲主義」や「艦隊決戦」に固執していました。日本だけが古い頭の持ち主だったわけではありません。

ただ、単純に巨大戦艦を揃えた方が戦争に勝つという単純な考え方ではなく、「制空権下の艦隊決戦」なるスローガンが唱えられていて、戦艦に航空母艦を付けて飛行機を発進させ、敵の飛行機を撃滅して戦場上空の支配権(制空権)をとった方が上空の飛行機から戦艦の精密な射撃を誘導して敵戦艦を一方的に撃破できる、だからそうしたいという考え方で日米とも動いていました。

大和型は数の劣勢を強力な主砲で補うというコンセプトで造られた戦艦ですし、日本は戦艦の劣勢を飛行機で補うため陸上攻撃機と呼ばれる、洋上を長距離飛行して米艦隊を攻撃できる飛行機の開発にも力を入れていました。

1938年3月に起工された戦艦武蔵(1942年8月の竣工後撮影):排水量6万9000トン、46cm砲三連装砲塔3基装備。(Photo by creativecommons)

太平洋戦争当初の日本海軍は米軍と互角の勝負を繰り広げましたが、これは戦前の航空戦力の蓄積が大きいです。ですから、日本だけが飛行機を軽視して戦争に敗れたという通説は当たらないと思います。

――第一次世界大戦時、ヨーロッパでは激しい航空戦がおこなわれました。このことは、日本の軍備にどのような影響を与えたのでしょうか。

日本の陸海軍はヨーロッパの戦場にまとまった軍事力を送ることはありませんでしたが、戦争や戦法の変化には大きな関心を持っていました。大勢の軍人が戦場を見に行ったり、総力戦や国家総動員についての研究をはじめました。そのなかで、飛行機が注目されます。

飛行機は単に戦場の偵察や爆撃だけではなく、敵国の都市爆撃にも使えるので、その飛行機から日本の都市をどう守るかが課題とされていきます。敵の飛行機を打ち落とすためにはこちらも飛行機が必要ですし、国土に侵入した飛行機を打ち落とすための高射砲もいります。こうした軍備の充実にはお金がかかるので、当時の陸軍は歩兵部隊をリストラし、浮いたなけなしのお金を飛行機や戦車といった機械化装備につぎこんでいきます。

一方、海軍は飛行機やそれを積む航空母艦の建造をイギリスにならって進めましたが、ただ空母が必要だから建造予算をくれといっても説得力が薄いので、日本を襲う米空母を撃退するにはこちらもはるか洋上に空母を繰り出して対抗するしかない、というロジックを使うようになります。

このように、陸海軍ともヨーロッパの航空戦をそれなりによく見ていて、なんとか追いつこうと苦心していたのです。