Photo by iStock
生命科学 ライフ 環境・エネルギー

自由研究にもってこい!大人も知らない謎だらけ「セミの真実」

夏休みスペシャル・「生物地理学」の不思議

日本人にとって最も身近な昆虫のひとつ、セミ。知っているようで知らない彼らの秘密を、「生物地理学」から考える――。中国奥地を拠点とするネイチャー・フォトグラファーの、夏休み特別寄稿をお届けする。

「ミーンミーン」は大阪では聞こえない?

今年も暑さが本格化し、セミたちの鳴き声が聞こえるようになりました。

一年のうちおよそ半年間を、中国大陸の山奥に赴いて撮影とフィールドワークに費す僕にとっては、夏に帰国して、にぎやかなセミの声を聞くと「ああ、日本の夏だ」という実感がわいてきます。「うるさい」と敬遠する人もいるかもしれませんが、僕は彼らの歌声がとても好きです。

先日、雲南省から関西国際空港に戻ってきた際には、空港の植木からクマゼミの奏でる「爆音」が聞こえてきました。日本人には当たり前のことなのですが、日本のように大きな声で鳴くセミがほとんどいない欧米の人たちには、この「爆音」は驚異なのでしょう。立ち止まって怪訝な顔をしている人が何人もいました。

日本では、さまざまなセミが夏の間じゅう、多種多様な鳴き声を聞かせてくれます。7月に入ってまもなく鳴き始めるのがニイニイゼミヒグラシ(「ヒグラシは夏の終わりに鳴くセミじゃないの?」と思われる方もいるかもしれませんが、彼らは実際にはかなり早い時期から鳴き始めます)。8月に入りいよいよ暑さも厳しくなってくると、アブラゼミミンミンゼミ、クマゼミが大合唱を始めます。そして晩夏から9月にかけて、ツクツクボウシの声に夏の終わりを感じる…。

中でも「夏の代名詞」として親しまれているのが、ミンミンゼミでしょう。銀座や御茶ノ水、新宿など、東京都心でも彼らの鳴き声を聞くことができます。

ドラマやマンガの中でも、真夏の炎天下を描いたシーンでは必ずと言っていいほど「ミーン、 ミーン」というミンミンゼミの声が添えられています。ただ、こうした描写は、実は生物学的には「間違い」であることがしばしばです。

以前目にしたとあるマンガに、こんな場面がありました。夏の太陽がギラギラと照りつける大阪・道頓堀。そこにセミの声が、ミーン、ミーンと聞こえてくる…。

どこがヘンなの? と思われるかもしれませんが、しかし実際には、このようなことはまずありません。なぜなら、京都や神戸などで山に近い地域を除いて、ミンミンゼミは関西の都市部にはほとんどいないからです。大阪市の中心部でけたたましく鳴いているセミがいるとすれば、それはほぼ間違いなくクマゼミです。

セミの分布のしかたに、東日本と西日本で大きな違いがあることをご存知の方は、意外と少ないのではないでしょうか。

西日本では、ミンミンゼミは都市部ではなく山地帯に主に生息しています。もちろん何か所か例外はあるものの、とりわけ関西においては、真夏の平地の都市部には、ほぼクマゼミしか棲んでいないのです。

西に行くほど鳴き声は短くなる

ここからは、まずミンミンゼミの意外な生態についてお話ししましょう。

ミンミンゼミは、日本だけでなく朝鮮半島、さらに北部と南部を除いた中国大陸にかけて、東アジアの広範囲に分布しています。日本国内でみられるものに関しては、体色などの細かい違いはありますが、基本的には全て一つの種であるといえます(例外として、山形県の飛島[とびしま]、山梨県甲府市の武田神社周辺などで緑一色の珍しい個体が出現することが知られています)。

興味深いことに、ミンミンゼミには、地域ごとに鳴き声の回数に違いがあります。ミンミンゼミはまず「ミンミンミンミン…」と鳴き始めて徐々に声を大きくしてゆき、その後「ミーンミンミンミンミーン」を繰り返します。この「ミーンミンミンミンミーン」を最小単位と捉えた場合、東京に棲むミンミンゼミの鳴き声は、たいていの場合12回を1セットにしています。何らかの理由でふいに鳴き止むといった場合を除いて、関東圏では、この回数はほぼ安定しているようです。

 

これに対して西日本にいるミンミンゼミは、明らかに鳴き声を繰り返す回数が少なく、平均すると7〜8回を1セットにしています。ほぼ山の中でしかミンミンゼミの姿が見られなくなる九州まで行くと、日本における分布南限付近の宮崎・鹿児島県境の白髭岳で僕がチェックした個体の場合、1セットが4〜5回でした。

西日本にも地域によっては10回前後鳴く個体がいるので、一概には断言できないのですが、大半の個体が十数回で安定している東日本産のミンミンゼミに比べると、鳴き声の短い個体が多いといえます。