欧州サッカー「激動の移籍市場」の舞台裏

気になる柴崎の動向も

ヨーロッパの移籍市場が活気を帯びている。

取り沙汰されているのは大物の移籍だ。6月にスペイン検察当局から脱税容疑で起訴されたレアル・マドリードのFWクリスティアーノ・ロナウドは国外移籍を目指すと伝えられたが、残留が基本線となったようだ。

一方、バルセロナのFWネイマールにはパリ・サンジェルマンへの移籍報道が過熱している。史上最強トリオと称されるFWリオネル・メッシ、FWルイス・スアレスとの「MSN」はひょっとするともう見られないかもしれない。

C・ロナウドの移籍騒動は落ち着きそうだとしても、欧州チャンピオンズリーグ(CL)とリーグ2冠を達成したレアルの出入りが激しい。FWアルバロ・モラタはチェルシー、DFダニーロはマンチェスター・シティ、MFハメス・ロドリゲスはレンタルでバイエルン・ミュンヘンと出番の少なかった選手たちが次々にクラブを飛び出した。

新加入には次世代のスター候補である18歳のFWキリアン・ムバッペの獲得を目指しているようだ。今季は特に若手の獲得に精力的で、ベティスからは先のU-21欧州選手権MVPでスペインの準優勝に貢献したMFダニ・セバージョスを獲得している。レアルはオフでも話題の主役となっている。

ソツのない半年契約

翻って日本人選手の動向である。

ACミランとの契約切れに伴い、フリー移籍が可能となっていたMF本田圭佑はスペインのレバンテ、ラスパルマスからオファーがあったようだが、メキシコ強豪のパチューカを新天地に選んだ。

現時点において日本代表クラスで「欧州内移籍」が決まっているのは1人だけ。スペイン2部のテネリフェで活躍したMF柴崎岳である。昇格プレーオフ決勝で敗れたヘタフェへの完全移籍は衝撃を与えた。背番号「10」を与えられたことからも、その期待の大きさがうかがえる。

スペイン1部移籍は、言うまでもなく柴崎本人が自分の価値を証明して、自分で勝ち取ったものである。

だが、もしテネリフェと複数年契約を結んで違約金が発生していたなら、ここまでスムーズに進まなかったかもしれない。異例の半年間契約で、退路を断って勝負に出たことが結果的には吉と出た。もしテネリフェが1部昇格を果たしていれば、契約更新のオプションが設定されていたという。ソツがない契約だったことは間違いない。

 

半年前にさかのぼると鹿島アントラーズとの契約切れに伴い、冬の欧州市場で移籍を目指す柴崎の移籍候補に挙がっていたのはカナリア諸島のグラン・カナリア島にあるスペイン1部ラスパルマスだった。

合意寸前と目されていたが、移籍期限ギリギリまで迫った段階で〝破断〟になった。昨年12月のクラブワールドカップ(CWC)で欧州王者レアルを相手に2点を取ったとはいえ、欧州でのプレー経験がない。スペインの地で活躍できた日本人選手と言えるのはMF乾貴士(エイバル)ぐらい。柴崎が日本代表からも遠ざかっているという状況もあってラスパルマスは彼を「有力候補」に置きながらも、最終的にはシビアな判断を下したと言えるだろうか。

ラスパルマス移籍の消滅が明るみになるとともに、メディアもノーマークだった同じカナリア諸島にあるテネリフェ移籍が発表された。実はラスパルマスと併行して移籍交渉が進められていたのだ。発表に至ったのは、冬の移籍マーケットが閉まる1月31日。まさに滑り込みでの移籍実現であった。昇格プレーオフ圏内につけていることからも、悪くない選択だと言えた。テネリフェのシーズン終盤の勢いは柴崎なくしてあり得なかった。

敏腕代理人が成功のアシスト

柴崎とエージェント契約を結ぶのはアルゼンチン・ブエノスアイレス生まれの日系3世、ロベルト佃氏である。MF中村俊輔を筆頭にMF長谷部誠(現在は独立)、FW岡崎慎司、DF長友佑都ら契約する選手を次々に海外へ送り出してきた。6カ国語(英語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、フランス語、日本語)を操る語学力とタフな交渉術は、海外の代理人たちからも一目置かれる存在である。今回、契約するMF鎌田大地のフランクフルト移籍も取りまとめている。

柴崎のテネリフェ移籍は、スペインならどこでも良かったわけではない。

移籍期限が近づくなかでの駆け込み移籍はチェゼーナからインテルに渡った長友でも経験しており、テネリフェ移籍も柴崎と協議したうえでギリギリまで契約条件を詰めていたと推察できる。その成果こそが「半年間契約」だったように思う。

5年ほど前、ロベルト氏にじっくりとインタビューしたことがある。

移籍先を選ぶポイントについて、彼はこう語っていた。

「どういうクラブで、どういう指導者がいて、どういうサッカーをして、契約する選手と合いそうかどうか。そこを考えながら、選手とも話をします。もしサッカー以外のこと(スポンサー)を期待しているクラブがあれば、はっきり言いますよ。『僕は日本の文化を売りに来たんじゃない。選手の能力を売りに来たんだ』と」

選手には移籍のメリット、デメリットの両方を伝えたうえで、本人に決断させるという。これを柴崎のテネリフェ移籍に置き換えてみても、クラブは中心選手として期待を懸けるとともに、柴崎も納得して新天地に選んだということ。移籍当初は不安障害の可能性を指摘されるなど環境の適応に時間が掛かったものの、結果的にテネリフェ移籍は成功だった。

昇格プレーオフ決勝で対戦したヘタフェへの移籍は、またもノーマークだった。秘密裏に交渉が進んでいたということか。

テネリフェへの愛着はあるにせよ、のし上がっていくためには1部でプレーすることを柴崎自身が強く望んだと思われる。

活躍を評価されてステップアップしていく。

もちろん柴崎にとってヘタフェがゴールではない。これから先が本当の勝負である。