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国際・外交 アメリカ 北朝鮮

誰も語らない米・朝の「深くて太い」水面下接触

8月危機の裏のメッセージと探り合い

米朝間に存在するチャンネル

日本人にとっては意外かもしれないが、核ミサイル開発問題で激しく対立しているはずのアメリカと北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)との間には、直接のチャンネルが通じている。

具体的には、真正面から「核カード」を持って対決する一方で、アメリカと北朝鮮の間では、北朝鮮のIT専門家がアメリカ国務省発行のビザを得てアメリカの土地を踏むなどの関係が、2002年から続いていたのだ。このことは、日本はしっかりと認識しなければならない。

もちろん 表面的には、北側が金正恩総書記のもとで、核や大陸弾道ミサイルの開発のための実験を加速させる2014年を最後に、こうした関係は中断されている。

20142014年、中国・大連で行われた米朝科学技術交流

8月29日のサイン

8月29日には、北側が発射したICBM(大陸間弾道ミサイル)が北海道上空を通過し、全国のテレビ画面が「アラート」情報を流し続ける異様な事態が発生した。国際連合安全保障理事会の中ソも含めた非難声明は、制裁措置を無視して続く北側の挑発行動が「肌で感じられる」ところまで来ている。

しかし、米韓合同軍事演習が始まり、北の声高な対米非難のボルテージが上がる中、22日に、筆者の十年来の友人である北朝鮮問題の研究者で、ニューヨークの社会科学調査評議会で北東アジア共同安全保障プロジェクト部長を務めるレオン・シーガル博士は、東京からの私の電話に次のように答えた。

「私見だが、北とトランプ政権はどこかで秘密接触を行っていると思う。そのチャンネルが存在することは間違いない」。

そして、「韓国軍が、今度の米韓合同演習で北側を刺激する演習には参加しない可能性があるという報道に私は注目している。つまり、北側がかねてから強い不快感をあらわにしている、グアム基地のB1-B爆撃機や、原子力空母などによる先制攻撃を想像させる、示威的な演習には参加しないとの見方があるのだ」。

「何らかの形での米朝間での話し合いが始まる可能性が見えてきた。戦争をやれないとの認識は、既に双方は一致しているのではないか」。

注目すべき発言だ。シーガル博士は、7月25日の上院外交委員会での証言でも、いわゆる中国を動員しての北への制裁圧力には賛成しながらも、北側が核問題でどのような落としどころを考えているかを知るために、「『話し合いのための話し合い』に入ることが必要だ」という見解を述べた。「その点でトランプ大統領は賢明な態度を取っている」とも述べている。

北朝鮮側も、8月の国際連合安全保障理事会の追加制裁決議にもかかわらず、宣伝していた6回目の核実験を本稿執筆現在の8月末の段階でも行っていない。その代わりに、グアム島の周辺、30~40キロメートルにミサイル4発を撃つ、「包囲発射」の計画を立てる、と発表するにとどまった。

8月下旬、米韓合同演習開始後、間もなく行った抗議のミサイル発射でも、予想されていた潜水艦発射型ミサイル(SLBM)ではなく、短距離ミサイルを使うにとどめ、スケールダウンした反応となった。

さらに、29日に日本の北海道上空を越えて1発だけ発射されたミサイルは、グアム「包囲射撃」に使われるとみられていたものと同型だった。シーガル博士は、翌日、筆者の電話取材に「実際にはグアムに対して撃たないことで、態度を軟化して見せた」と答えている。

アメリカ側も、シーガル博士が注目しているB1-B爆撃機の出撃を抑えれば、北の軟化姿勢に応じることになる。

 

トランプ以外は「話し合い」模索か

水面下での「話し合いのための話し合い」のチャンスは、存分に生まれている。

シーガル博士は、エール大、ハーバード大で学び、国務省勤務の後、ニューヨーク・タイムズの論説委員を経て、現職。1994年の「米朝枠組み合意」の過程を分析した『ディスアーミング・ストレンジャーズ 北朝鮮との核交渉』(プリンストン大学出版局、1998年)という著作がある。

北朝鮮へ何度も訪問し、世界各地での米朝の非公式協議には、幾度となく米側のメンバーとして参加している。

今、必要なのは、シーガル博士が予言しているように、この「話し合いのための話し合い」の先に見えてくる両者の「落としどころ」に備えることだ。

すでにマティス国防長官は、はっきり「北の体制変化など求めない」と明言しており、ハリス米太平洋軍司令官も22日「まず外交的な努力が第一であり、軍事的手段はそれを支えるためのものだ」と述べている。

当面の焦点は、米韓合同軍事演習の最終段階で、アメリカ側がB1-B爆撃機などの出動、北側が6回目の核実験、といった、さらなる「挑発エスカレーション」に踏み切るのかどうか、あるいは、逆に双方がこのエスカレーションを最後に「話し合い路線」に転じるのか、の分岐点である。

まだ姿は見えないものの、「話し合い」の舞台はセットされつつあると考えてもいいのではないか。

アメリカが、北をどこまで「核保有国」として認めるのか、果たしてインド、パキスタン並の扱いをする用意があるのかどうか、北がどの程度の「体制保証」で満足するのかどうか――というところまで考える段階に来ているのかもしれない。

したがって、米朝が2014年まで続けていた「蜜月関係」を、日本はしっかり捉え直しておくことが必要だと思う。いたずらに「危機」だと騒ぎ、おびえるより、過去の事実を理解しておくことが重要だ。

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