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革命を知らない中国指導者…日中の「困難」を乗り越える歴史への態度

気鋭の研究者による必読書

革命を知らない最高指導者

この7月1日に、香港は返還20年を迎えた。中国の習近平国家主席も、就任後はじめて香港を訪れ、記念式典で演説をしたのは周知のとおりだ。

印象的だったのは、その直截な口調である。

中央の権力に対するいかなる挑戦もけっして容認しない

民主化をもとめる香港市民の動きへの牽制とみられるが、超大国の最高権力者ならば、もう少し含みとか余裕をもった言い方はできないものかと、つい嘆息をする。このところ、どうも性急な発言をする世界の指導者が多くないだろうか。

中村元哉さんの『対立と共存の日中関係史――共和国としての中国』は、「叢書 東アジアの近現代史」の一冊として、このほど刊行された。日露戦争から戦後の日中国交正常化までの中国近現代史を、歴史学の最新の知見に基づいて描き出している。歴史研究の成果を、客観的な叙述に落とし込んだ、近来にない労作といえよう。

そのなかで、「中国の夢と憲政の夢」と題された序章で、習近平をとりあげている。

1953年生まれの習近平は、共産党による革命と中華人民共和国の成立を、直接には知らない世代の初めての最高指導者なのだという。

簡潔にいってしまえば、現在の中国は、過去の輝かしい革命と熱気に溢れた社会主義建設時代を直接には知らない、エリート総書記によって運営されているのである

この指摘は、きわめて興味深い。

言われてみれば、あの香港での演説の、少々性急なもの言いが腑に落ちるではないか。「太子党」と呼ばれる党高級幹部の子弟として、順調に権力の階梯を登りつめたエリートゆえの直截さ、とでも言えばいいか。

習近平とキャリー・ラム香港返還20周年記念式典。右端が習近平国家主席、国旗の下の女性が香港行政長官となったキャリー・ラム氏〔PHOTO〕gettyimages

繰り返される「教科書問題」

もっとも、本書の本領はこのような箇所にだけあるわけではない。

むしろ、歴史史料をふまえて、辛亥革命から日中国交正常化までを、堅実に正確に描き通した力量にある。

ひとつ、エピソードをあげておこう。

 

日中間でいわゆる「教科書問題」が起こったのは、なにも今がはじめてではない、ということを本書で学んだ。

1915年、日本は袁世凱に対して、二十一ヵ条の要求を突きつけた。この要求は、旅順と大連の租借期間を九十九年に延長すること、中国政府に日本人顧問の任用を求めるなどの内容を含んでいた。この条約の締結が、中国のナショナリズムを反日へと駆り立てることになる。

これに反応した日本は、中国の排日的教科書を取り締まるよう、北京政府に求めたのだそうだ。

現在の教科書問題とは事情が異なるけれども、教科書が国際関係のセンシティブな問題になる、という歴史は、繰り返すものであるらしい。