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科学史の泰斗が問う「日本科学界のタブー」

科学は軍事とどう付き合うべきか

日本学術会議が今年の春に発表した声明は、「デュアルユース」(民生目的にも軍事目的にも利用可能)を前面に打ち出した軍事研究が、大学という「自由でオープンな研究の場」に及ぼしかねない影響を、強く危惧するものであった。しかし「デュアルユース」には、別の側面もある――。

(前編はこちら:この国では再び「軍事と学術」が急接近してしまうのか?

「デュアルユース」の活用

「デュアルユース」は、安全保障上、他国との関係において警戒すべき事象である。しかしそのデュアルユースを、自国の安全保障のために積極的に有効活用しようとする動きもある。

冷戦が終わった1990年代、米軍は、デュアルユースの活用を力説するようになる。最新技術を手頃な価格で入手して軍備に活かすためである。

冷戦が終わると国防予算の伸びが止まった。その一方で、民間産業の研究開発予算は伸び続けている。しかも民間産業では、市場競争に促されコスト低減の意識が強く、開発サイクルも短い。

そこで、民生技術を積極的に取り込むことで、軍事システムを常に最先端のものに維持していこう、それも安あがりに、と考えた。民間にあるデュアルユース技術を活用することで、前回に述べたオフセット戦略を効果的に推進しようというのである。

これが上手くいくには、民生技術が世界最先端でなければならない。そこで国防総省は、民間産業が進める民生目的の研究開発のうちデュアルユースのもの、なかでも米軍にとって特に重要なものについては、国防総省がその研究開発を予算面も含めて支援している。

国防総省傘下のDARPA(国防高等研究計画局)が、災害救援用ロボットの技術を競うコンテスト(ロボティクスチャレンジ)を開催したのも、こうした戦略の一環である。

国防総省とは別にCIA(中央情報局)も、自組織の外に非営利のベンチャーキャピタルを設立して、ハイテク企業での研究開発を支援する、などのことを行なっている。

 

わが国でも同様の取り組み

防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」も、こうした動向と軌を一にするものであり、兵器・装備品に「優れたデュアルユース技術を効果的・効率的に取り込む方策」だと謳っている。

初年度(2015年度)には、防衛装備庁の設定した28の研究テーマに対し109件の応募(大学等58件、企業等29件、公的研究機関22件)があった。「メタマテリアル技術による電波・光波の反射低減及び制御」や「昆虫あるいは小鳥サイズの小型飛行体実現に資する基礎技術」など「将来的にも有望な技術分野」に多くの応募があったという。

この結果について防衛省は「民生分野においてこれらが盛んに研究実施されていることがうかがい知れた」と述べている。前者はステルス性能の向上に、後者は偵察や監視などに活用できる無人飛行体の開発に役立つ。だからこの制度は、民生技術の中に軍事用の技術基盤を見出すのに有効だった、ということであろう。

同様の取り組みは、総合科学技術・イノベーション会議(首相が議長)の主導する「革新的研究開発推進プログラム」(略称ImPACT)でも行なわれ、その制度設計は米国のDARPAを範としている。