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読書で離婚危機?作家夫婦が本の感想を言い合ったらこうなった

ふたりの「食い違い」の結果は…

夫婦のかたちに正解はない。本の読み方にも正解はない? 芥川賞作家の夫とホラー作家の妻、相互理解のために本を勧めあった結果は…。夫婦の危機を覗き見ながら、読みたい本に出会える一冊、『読書で離婚を考えた』。当事者のお二人に話を聞きました。

ハラハラ、イライラの日々

―SFを基調とする前衛的な作風で知られる夫と、民間伝承などを扱った幻想ホラーを執筆する妻が、相互理解を深めることを目的に、相手に読ませたい本を指定し読後文を書くという、ウェブ上でのリレー連載の書籍化です。なんとも刺激的なタイトルですが……。

田辺 夫婦での読書体験をよりアピールできるタイトルにしようと、私がつけました。

円城 僕は、やや反対しました。「離婚」と掲げてうっかり本当になるとシャレにならないので。

田辺 そう? 私は離婚にとくにネガティブな印象はなくて、むしろ無理して一緒にいるより……。

円城 そういう本じゃないでしょ(笑)。夫婦での仕事は初めてでしたが、それぞれ文章を書くだけだし、と思い軽い気持ちで引き受けました。

 

―課題図書は得意のSFやホラーだけでなく、時代小説、エッセイ、漫画、料理や健康といった実用本まで広範囲。図書の選定や書く内容については、事前に相談しないルールだったとか。

田辺 本を見た瞬間、「うっ、これは書けない……」と思うもののときは、締め切りまでただオロオロするばかりでした。

円城 僕の方針ははっきりしていて、「このジャンルならどういう反応かな」と、興味の輪郭を本で囲んではっきりさせていくという戦略だったんですが、この人は……。

田辺 私は、やはり自分の好きな本や感銘を受けた本を薦めました。「ああ、いい本を紹介してくれた」という返しが来ると思っていたんですけど。

円城 吉村昭の『羆嵐』やスティーヴン・キングの『クージョ』など、なぜか凶暴な動物が襲ってくる本ばかり薦められて。

田辺 彼の実家は北海道だし、帰省中に熊に襲われたときに備えておくほうがいいのかな? と。

円城 そんな気遣いがあったことを今はじめて知りましたよ(笑)。

―お二人の関係に緊張が走る瞬間がたびたび訪れます。「かわいい奥さん」という田辺さんのセルフイメージに円城さんがヒビを入れる場面など、夫婦喧嘩に発展したのでは?

田辺 そういう理想の妻になれないのは知っていますが、だからってわざわざ「あなたは違うんですよ」と触れ回らなくてもいいじゃない、と。

円城 夫婦間でハラハラ、イライラ、まあ、全体的にずっとピンチでしたね。

田辺 更新日の後はお互い、ちょっと無口になっていましたから(笑)。

―しかし、手に負えない本にはあっさり白旗を上げる田辺さんのレビューを、円城さんが次の回でさりげなく補足するなど、コンビ技も随所にありました。

田辺 折り紙の本(三谷純『立体折り紙アート』)の回は本当に大変でした。

円城 さすがにあれはフォローしなくてはいけないと思った(笑)。僕も、ダイエットの本(ゲッツ板谷『板谷式つまみ食いダイエット』)はキツかった。逆に、読めてよかった本は、渡辺淳一の『花埋み』ですね。

田辺 私は関容子の『日本の鶯 堀口大學聞書き』が面白かったですね。

川を挟んで立つふたり

―お二人がご自身の本の読み方や関心の深め方、それぞれの小説の作風について考察を深めていかれる様子も興味深いです。

円城 僕は、情景描写は単なる文字として捉えている。たとえば山の描写があったとしても、山のイメージをまったく思い浮かべないんです。

田辺 私は、まずイメージがあって、それを文章が追っていると考える。円城は物語は物語の中だけで完結すると捉えているんだろうなと思いましたが、私は物語を書いたときの著者の心の状態にも興味があって。「なぜこれを書いたのかな?」と想像しながら読むのが好きなようです。

円城 確かに、僕にとって、物語は物語。現実とのつながりもなくていいし、主人公が人間でなくても、動物でなくてもいい。かなり抽象的です。