警察 インテリジェンス

日本はテロに屈した…公安捜査官がそれでも捨てられなかったもの

ある公安警察官の遺言 第3回
竹内 明 プロフィール

身代金を数える場に立ち会う皮肉

このとき、古川原は警部補に昇進して、空港警察署の警邏係長になっていた。上司は古川原にこう言った。

「身代金が羽田空港の税関所長室に届く。おまえは連続企業爆破事件に関っていたのだから、金額を数える場に立ち会って来い」

日本政府は2度目の超法規的措置を決断したのである。しかし、それはあまりに酷な命令だった。

税関所長室に運び込まれたのは、アメリカから緊急輸送された400万ドル。犯人の要求どおり古いドル紙幣だった。古川原は税関職員たちが、紙幣を床に広げて数える様を呆然と見守った。

「佐々木を逮捕した俺が、佐々木の要求に応じて身代金を数えるなんて皮肉なものだった。どっかのお偉いさんが『人命は地球より重い』とか言っていたけど、テロリストを逮捕した俺たちからすれば、日本はこれでいいのかという思いしかなかったよ。

大道寺たちが飛行機に乗っていくのを税関所長室から見ていたんだけど、何もできなかった。むなしかったなあ」

 

古川原は執念の男だった。拓殖大学語学研究所の、アラビア語の講座に通い始めたのだ。日本赤軍がいるレバノンに行くためである。

しかし、その思いは実らなかった。アラビア語の講義を修了したものの、古川原が赤軍ハンターとして中東に渡ることは許されなかった。