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警察 インテリジェンス

シャバで最後の風呂をともに…テロリストと刑事が裸で交錯した瞬間

ある公安警察官の遺言 第2回
報道記者として、警察やインテリジェンスの世界を取材し続けてきた竹内明氏。その竹内氏が長年、交流を持ってきた、ひとりの元公安警察官の生きざまからは、極左過激派やオウム真理教事件など、昭和から平成にかけての激動の時代の「裏側」で、決して光を当てられることなく活動してきた男たちの戦いが透けて見えます。知られざる公安警察の実像に迫る連続ルポ、第2回(前回までの内容はこちら)。

シャバでの風呂は、これが最後だ

大学生をまんまと追い出し、視察の拠点を確保した警視庁公安部の古川原一彦。一方、丸の内の三菱重工などで連続企業爆破テロ事件を起こした、東アジア反日武装戦線“狼”佐々木規夫も、完璧な偽装を続けていた。

佐々木は毎朝8時半に自宅を出て、同じ電車に乗って、会社に向かう。生真面目なサラリーマンを演じていた。だが、古川原たちの完璧な尾行に気づく様子はなく、仕事が終わると仲間たちと接触した。

古川原たちは、芋づる式に仲間の大道寺将司あや子夫妻の存在を突き止め、東アジア反日武装戦線“狼”グループの全容を解明していく。

メンバーは会社員などを隠れ蓑にして、完全に地下に潜行したまま爆弾闘争を繰り広げる秘密テロ組織だったのだ。

粘り強い視察は5ヵ月間続いた。この間、末端の古川原に休みはなし。駅伝がつちかった体力と精神力だった。

 

古川原には忘れられない思い出がある。逮捕の前日、佐々木と風呂に入ったのだ。

「普通は銭湯の中まで尾行しないが、逮捕の前日なので風呂桶を持って佐々木を追っかけた。すると、ほかに客はいなくて、2人きりで湯につかることになった。

しばらくすると佐々木は湯を出て、髭を剃り始めた。鏡にくっつくようにして剃っていたので、眼がかなり悪いんだな、と思った。俺は心の中で『よく体を洗っておきなさい。シャバでの風呂はこれが最後だ』と言ったよ」