学校・教育

早稲田大学で起こった「非常勤講師雇い止め紛争」その内幕

悲鳴を上げる大学雇用
田中 圭太郎 プロフィール

大学の暗い未来

さて、早稲田大学の闘争では、非常勤講師の就業規程をめぐる告訴・告発は、2013年12月に不起訴となったものの、翌年開かれた検察審査会で「不起訴不当」と議決された。もし、起訴されてしまったら、大学の評判が下がることは避けられない。他の告訴・告発も含め、違法性を指摘される可能性が高まったことから、大学側は次第に態度を軟化させていったという。

また、大学側の「自滅」もあったという。2013年7月には法学部の非常勤講師に、「5年間継続して勤めたら一学期休んでもらう」として、休職期間の希望を聞くアンケートが配られた。これは失業期間を設けて雇用継続の「期待権」をリセットし、無期契約への移行を回避しようと目論んだ「クーリングオフ」だった。厚生労働省が禁止している脱法行為だと指摘されると、大学側はすぐに撤回した。

また大学は「クーリングオフ」導入に失敗すると、今度は2014年度に商学部のカリキュラムを変えると称して、非常勤講師の語学授業のコマ数を削減する方針を通告した。しかし、代わりの授業を子会社に所属する講師が行うことがわかると、偽装請負の問題が生じて、闘争の結果、一定の金銭によって解決した。

このように大学側が「違法行為」を重ねたことで、大野さんら非常勤講師側は交渉を優位に進めた。そして、2017年4月までにすべての問題について非常勤講師側に有利な和解協定が結ばれた。和解によって、組合は告訴・告発を取り下げた。

 

結果、2014年3月以前から早稲田に勤務していた非常勤講師は、「無期雇用」への転換が認められた。それ以後に雇用された講師の上限は10年に。現在9コマ以上を担当している講師は引き続き同じ数を担当でき、それ以外の講師の上限は8コマとなった。非常勤講師の月給を10%引き上げることでも合意。

雇い止めされた日本語非常勤インストラクターも、70歳まで雇用されることとなった。制約はあるものの、当初大学側が突きつけてきた条件とは雲泥の差である。

筆者は早稲田大学にも話を聞こうと取材依頼を出したが、広報課は「非常勤講師の雇用の件で和解協定を結んだのは事実ですが、交渉の経過やその内容について私どもからお話するのは控えさせていただきます」と述べるにとどまった。

実は、早稲田大学だけでなく、同じタイミングで同様の提案を非常勤講師に対して行っていた大学も少なくなかった。が、早稲田が和解を受け入れたことで、雇い止めとコマ数削減を検討していた他の多くの大学も導入を諦めたのだ。早稲田大学内部での闘争ではあったが、その影響は日本の大学全体に波及した、といっていい。

だが、非常勤講師の立場はいまだに「危ういもの」だという。

政府が今年6月に閣議決定した、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)では、今後、私立大学の再編を促進していくことが明記された。大学同士の統合を可能にする枠組みや、経営が困難な大学が円滑に撤退できる仕組みづくりの検討が進められることになった。

また経済財政諮問会議や、財務省の財政制度等審議会からの提言を受けて、私立大学に配分されている補助金を見直し、就職率など教育の成果によって配分に差をつけることも盛り込まれた。(内閣府ホームページ2017年6月9日)http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2017/2017_basicpolicies_ja.pdf

目下、全国に600ある私立大学の44.5%が定員割れの状態にあるとされるが、今後はそうした不採算大学について、国が主導して定員の削減や大学再編が行われる可能性が高まってきている。

名門である早稲田大学でも、非常勤講師の大量雇い止めの危機が起こったのだ。他の大学で「合理化」「スリム化」の名のもとに、様々な施策が提案・導入されることは、想像に難くない。すでに人知れぬところで進められているものもあるはずだ。

急速な少子化が進む中では、早稲田とて将来経営が安泰というわけではなく、さらなる合理化が必要だ、ということも分からないではない。が、議論を重んじるべき大学で、その手続きを軽視したやり方が進められたことには、違和感を覚えざるを得ない。

早稲田大学の非常勤講師の闘争から見えたのは、多くの大学から悲鳴があがる暗い未来だった。