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米・中・露「三大帝国の暴走」と埋もれゆくニッポンの命運

国際政治を知り尽くす三人が徹底討論

クリミア併合後も周辺国に威圧感を高めるロシア、尖閣、南沙諸島で示威活動を続ける中国、「世界の警察」を捨てこれまでの国際秩序を否定するアメリカ。このたび刊行された『大国の暴走』は三大帝国の暴走の原理と今後の世界地図の変容を、アメリカ・ロシア・中国、それぞれの分析のプロが徹底的に論じた一冊だ。今回、その一部を特別に公開する。

隣の国は“ほとんどわれわれ”である?

小泉 おそらく中国人もそうじゃないかと思うんですが、ロシア人という人たちは「勢力圏」という概念にすごくこだわります。

たとえば彼ら、ロシア人はよく「歴史的空間」という言葉を使います。ロシア帝国とかソ連がかつて支配していた地域は、ロシア本国との比較で数割度合いが薄まるにしても、自分たちの主権が及ぶエリアであるとみなしているんです。

もちろん国際法上そんなことが認められることはありえないけど、ロシアのような大国がそのような考えを持って実際に行動を起こすと、それは現実の一部を構成しますからね。

近藤 ロシア語が通じる国は旧ソ連圏にはたくさんあるんですよね。

小泉 まさにそのとおりで、ロシアの外側にはロシアではないけれどロシア語が通じて、ロシア人が100万人単位で住んでいる地域があります。

 

さらに言えばウクライナとかベラルーシの場合、正教会も自前ではないんですよ。モスクワに総主教がいてその支部という位置づけなんです。グルジアとかアルメニアにはグルジア正教会、アルメニア正教会がありますけどね。

近藤 依然としてヨーロッパ的宗教世界が形成されているわけだ。

小泉 だからそういう意味でもわれわれは完全に別々ではないのだ、というのがロシア人の意識。ロシア語に「パチティー・ナーシ」という言い方があるんですが、これを日本語に訳すと、「ほとんどわれわれ」というくらいの意味です。

渡部 ほとんどわれわれ?

小泉 今はたまたまバラバラになっちゃっているけど、ベラルーシ、ウクライナぐらいまでは“ほとんどわれわれ”である、みたいな意識が彼らの中にあるわけです。

ロシア語を公用語とする国・地域(Photo by Maphobbyist(creative commons))
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だからこそ、そういう国がNATOに加盟したり、EUの政治体制に組み込まれたりするなどという事態は彼らからすれば絶対に認められないし、安全保障上も大問題、ということになる。

近藤 ロシアから見れば、ウクライナは絶対的な空間、ということですか。

小泉 ウクライナに限らず、バルト三国を除く旧ソ連圏は全部そういう扱いです。冷戦時代の東西対立の構図は、裏を返せばNATO側もワルシャワ条約機構諸国をソ連の勢力圏と認めていた構図でもありました。ロシアとしては、そういう勢力圏を世界に承認してほしいのです。

もちろん旧ソ連時代のように東ヨーロッパを支配できないことや、旧ソ連の国が昔の衛星国のようにモスクワからの命令を唯々諾々と受け入れることもないのはロシアもわかっています。

でも「○○しろ!」と強要することはできないにしても、少なくとも「NATOには入ってくれるな」といった、ロシアにとって決定的に不利益な行動をとらないように強要できる関係を維持したい、ということです。

近藤 そういう「ヤルタ体制2」みたいな勢力圏を作りたがっているのは中国も同じですね。アジアにおいて、アメリカ軍が入ってこられない地域を作りたい。その当面の目標が、「第一列島線」(中国軍の対米国防ラインとされる。九州、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島を線で結んだもの)の内側を支配することなわけです。

ロシアや中国に「厳密な国境」はない?

小泉 おそらく中国とロシアが似ているところって、まさにそういう「勢力圏」的な思想を持っているところじゃないかと思いますね。

近藤 そうですね。どちらも大陸国家、大陸文化ですからね。

小泉 その意味で僕は、九段線(南シナ海の領有権問題に関して、中国が権利を主張するために1947年より地図上に引いている区画線。当初は11本だったが、53年以降、現在の9本になった)って非常に示唆的だなと思いますね。

やっぱり大陸の人たちにとっての国境線ってリニア、直線ではないんじゃないかと。つまり、国境をグラデーションのように考えている節がある。

近藤 確かに。中国には古くから「皇帝の権威の及ぶ範囲が中国の国境である」というマンダラ的な考え方があります。中国とベトナムの国境がどこなのかって、歴史的に検証するのはすごく難しいんですけど、「権威が及ぶところまでがそうだ」なんて中国人は言ってきた。

小泉 話をロシアと周辺国との関係に戻すと、旧ソ連圏の国に対しては「これはするなよ」と言える一方で、昔はソ連の衛星国だった東欧諸国はもはやNATOに入ってしまっているので、そうした強要もできない。

だけど、東欧に今のところNATOの戦闘部隊が常駐していないのはロシアへの配慮があってのことです。ポーランドなどは米軍を常駐させてほしいと強く要求していますが、けっきょくロシアへの配慮でそこまでは踏み込んでいない。

近藤 でも、NATO軍は今年から東欧に派兵されますよね?

小泉 そうなんですが、最大4000人程度のごく小規模な部隊で、しかも常駐ではなくローテーション配備という建て前なんです。常駐させるとロシアの機嫌を損ねるから、半年ごとに部隊を入れ替えてあくまでも「常駐ではない」ということにした。