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「選手を絶対に叱らない」野球指導者が教える「勝利とは何か」

やっぱり、暴力は答えではなかった

夏の甲子園出場を決める地方大会が佳境を迎えている。おそらく全国の強豪校の指導者は、トーナメントに勝ち抜き、たった一枚の甲子園行きの切符を手に入れるため、すべてを犠牲にして厳しい練習を選手に課し、また選手たちもそれに耐えてきたはずだ。そして、多くの日本人はそのことに疑問を感じることは少ないだろう。

しかし、選手ひとりひとりの「個人の成長」を考えた場合、「目の前の勝利」を最優先にすることは、はたして正しいのだろうか?

球界最大のタブー「野球と暴力」に迫ったノンフィクション、『殴られて野球はうまくなる!?』を上梓した筆者が見た、新たな試みとは——。

「負けたら終わり」という重圧で…

2年前に「スーパー1年生」として甲子園を沸かせた清宮幸太郎が早稲田実業のキャプテンとなって東西の東京大会の選手宣誓をしたシーンを見て、「もう3年生になったのか?」と驚いた人もいるかもしれない。

「高校野球の3年間で」というフレーズがよく使われるが、高校球児に与えられる時間は少ない。1年生の春に入学して最後の夏の大会(7月に地区予選)までは2年4ヵ月しかない。4月には春季地区大会、7月に夏の甲子園の都道府県大会、8月に全国大会が終われば、9月・10月に翌年春のセンバツ大会の予選が始まる。じっくり選手を育てる時間的な余裕は指導者にはない。

 

高校入学直後からレギュラーとして活躍した清宮は間違いなく同世代で一番忙しい高校球児だが、すぐにポジションをつかむような有望選手ほど結果を求められ、勝利に対する責任を負う。

指導者のプレッシャーもまた相当だ。野球に力を入れる強豪校の多くが私学で、戦力が充実している年もそうでない年も「甲子園出場」を目標に掲げて戦うことが義務づけられている。選手にじっくり技術を教え、成長を待つ時間的な余裕などないという現実がある。

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だから多くの指導者は手取り足取り教えたり、型にはめたりして、「勝てるチーム」をつくろうとする。選手を追い込んで、チームを全員に同じ方向を向かせるために、暴力的な指導を行う指導者がいても不思議ではない。選手たちの成長を待てないというのが指導者側の本音だろう。

大会はいずれも、「負けたら終わり」のトーナメントだから、監督が常に目の前の勝ち負けにナーバスになるのは理解できる。「焦るな」と言うほうが無理だ。

ラテンアメリカの選手が強い理由

そんな日本とは正反対の育成スタイルを持つ国がある。

ドミニカ共和国はメジャーリーガーを多数輩出している国。メジャー通算609本塁打を放ったサミー・ソーサ(元シカゴ・カブス)、555本塁打のマニー・ラミレス、510本塁打のデービッド・オールティーズ、投手では41歳で200勝投手になったバートロ・コロン(前アトランタ・ブレーブス)など歴史に名を連ねる名選手ばかり。

ラテンアメリカの指導者は、10代の選手を指導するにあたって、手をあげたり、厳しい言葉を投げつけたりすることはないという。