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日本のCMの「炎上狙い」海外なら一発アウトです!

「やらしい」表現は響かない時代
河尻 亨一 プロフィール

日本だけ、どんどん世界とズレていく

二つ目は「消費者をなめている感じがする」という点。前述のポイントと重なってくるところではあるが、様々な情報に接し慣れたいまの視聴者(特に若い人々)は、コンテンツの良し悪しを一瞬で見抜く。「CMでそれやる?」みたいにそのコンテンツが存在する文脈も理解した上で視聴する。

よってジェンダーはもちろんその他のテーマを描くにせよ、企業が提供するコンテンツの中に、「みなさんはこれくらいのもので喜ぶでしょ?」といった上から目線や、逆に消費者に対する媚みたいなもの、あるいは「大人の事情があってこうなったんだな」と感じさせるモヤモヤが垣間見えた瞬間、もうそこから心は離れていくのである。そして、そのブランドは嫌いになる。

サントリー「頂」に関して、私としては問題視された「エロ表現」以上に、あまりに唐突な商品の登場のさせ方が気になった。ふつう持参した(と思われる)缶を飲食店でそのまま出すか? お店に怒られちゃうだろう。これはいただけない。

実はそういった表現のディテールにこそ、その企業の消費者に対する姿勢が無意識のうちに現れるのであり、視聴する側は感覚的にそれを"宣伝的身勝手さ"のサインとして読み取る。

「頂」公式サイトには「今回皆様からいただいたご意見を真摯に受け止め、今後の宣伝活動に活かして参ります。」の一文がさらっと記されてはいるが、どう活かすつもりなのだろう? 具体的に知りたいと思った。

話を戻すと、笑ってもらうにせよ、泣いてもらうにせよ、じっくり考えてもらうにせよ、情報を受け取る側は送り手側に、自分にとっての「本当のこと」や作りもの感のない「リアリティ」を求めているのではないだろうか。つまり、考え抜かれた真剣勝負でないと伝わらない。記事の前半で紹介したキャンペーンにはそれがある。

もちろん、その年の世界の広告の"てっぺん"を決めるカンヌのグランプリ受賞キャンペーンと、制作予算やスケジュールなどにおいても圧倒的に差がある日本の事例を比較して語ることには異論もあるだろう。しかし世界の"真剣勝負"に学ぶという意味では、カンヌはやはり参考になるフェスティバルだ。

近年では広告以外の業界(ITや医療、モバイル、映画・音楽・ゲームなどのエンタメ業界)も巻き込むことでフェスとしての規模も拡大傾向にあり、アメリカとイギリスがリードする世界ではあるが、国によっては大手メディアが熱心に取材し、詳細な情報を視聴者や読者に提供していたりもする。

なぜ、こんなことを書くかと言うと、筆者は今年で10回目の現地取材だったのだが、この10年を通じて「日本と世界の距離」が年々離れていってることを痛感しているからである。これは広告業界だけに生じている現象ではないのでは? とも考えている。

日本人の能力が諸外国に比べて劣るわけでは決してなく、冷静に見てむしろ高いほうだと思うのだが、人材や才能が全然活用できてないというか、頂を目指して挑戦するチャンスがあまりにも少ない。国際的な場へ行くとその空気をリアルに感じる。

もちろん、諸外国の人々とてカンヌで絶賛されるようなトンがったキャンペーンを日常頻繁に目にしているわけではないのだが。

 

クリエイティブにも責任が伴う

とはいえ今年は朗報もあった。リクルートライフスタイルによる「The Family Way」がモバイル部門でグランプリを受賞している。

不妊に悩む夫婦は6組に1組とも言われ治療も高額。しかし、不妊原因の約半分は男性側にあるにもかかわらず、なぜか多くの男性は自分に原因があるとは思わず、女性が病院に通い続けるケースも多い。

そこでリクルートライフスタイルは、スマホでできる精子のセルフチェックサービス「Seem」を開発。①採取した精液を顕微鏡レンズに載せ→②それをスマホのカメラに置き→③アプリを起動して動画を撮影することで、自分の精子の濃度や動きを手軽に知ることができるというもの。

現在ではこういった取り組みも世界の場では「広告」として評価されるようになっている。世間では悲しいかな、良いことより物議を醸すもののほうが広まりやすい傾向はあり、筆者も今回はなかば騒動に便乗してしまっているのだが、本来は「The Family Way」のような意欲的プロジェクトこそもっとお伝えしていかなければと思う。

先に紹介したP&Gのセミナータイトルは「クリエイティブと責任」であったが、いまはクリエイティブに社会的責任が問われるのと同様、それを報じる側にも昔とは異なる責任が生じている。

良くないものを良くないと批判するのであれば、一体何が良いのか? その糸口だけでもジャーナリズムは示さなければならない。それが日本に活力を取り戻すための第一歩だと私は考える。