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全米で初版50万部!マイケル・ルイスの新作、主役は二人の心理学者

『かくて行動経済学は生まれり』秘話

え? 主役は心理学者?

マイケル・ルイスの最新刊といえば「待ってました!」と身を乗り出すファンのかたは多いだろう。

しかしその主役が二人のイスラエル人心理学者と聞くと、「え? 心理学者」と意外に感じるのではないか。

マイケル・ルイスは1989年に金融市場を舞台にしたノンフィクション『ライアーズ・ポーカー』で鮮烈なデビューを飾ったあと、IT業界を舞台にした『ニュー・ニュー・シング』、メジャーリーグの弱小チームがデータを元に強いチームをつくりあげていく『マネー・ボール』、サブプライムモーゲージ債市場を描いた『世紀の空売り』など、次々とヒットを飛ばしてきた。何本かは映画化もされ、高い評価を受けている。

短期間で何千万ドルもの金が動く華々しい業界で、既存のルールや習慣の隙を突いて他人を出し抜き、巨万の富を築く男たち……。そんな人々を描く作家というイメージが強いので、心理学というのはかなり地味なテーマでは、と感じてしまう。

しかしルイスの作品を「それまで誰も気づかなかったことに気づき、誰もしなかったことを実行して世界を変えた人々の話」ととらえれば、本書『かくて行動経済学は生まれり』の主人公たちも、まさに誰も考えなかったことを考えて世界を変えた人物だ。

それがイスラエル人心理学者、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーである。

かくて行動経済学は生まれり

マイケル・ルイスがこの二人の心理学者を知ったのは『マネー・ボール』に寄せられた一つの書評がきっかけだった。

人の目が錯覚を起こすように、脳も正しくものごとを見られなくなるときがある。メジャーリーグのドラフトで選手の実力を見誤るのも、そうした脳の錯誤が原因であり、人間の脳がおかすそれらの系統的な間違いを指摘したのがカーネマンとトヴェルスキーであると。

ルイスはその書評を読むまで、二人のことは知らなかった。カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞しているのだが、一般的な知名度はそこまで高くなかったようだ。

しかし心理学者なのに経済学賞とは、それだけでも興味をそそる肩書だ。

 

作家の嗅覚

その後、本書が出版にいたるまでの経緯について、ルイスが雑誌のインタビューに答えているが、2007年に初めてカーネマンに会ったときは、まだ彼についての本を書こうという気はなかったと言う。

そのときはカーネマン自身が初めての一般読者向け書籍を執筆中で、悲観主義者の彼らしく、落ち込んで投げ出しそうになっていた。

そこで作家として本を書くことについてのアドバイスをしたらしい。その後、カーネマンの本は『ファスト&スロー』として出版され150万部を売る大ヒットとなった(邦訳はハヤカワ・ノンフィクション文庫)。

それから数年かけてカーネマンとの親交を深め、彼と過ごすこと自体がおもしろくなり、カーネマンとトヴェルスキーは歴史に名を刻むべき人物だと感じるようになったと、ルイスは語っている。