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エンタメ 週刊現代

池井戸潤の新境地『アキラとあきら』二人の青年が歩んだ30年

幻の長編がついに!

強烈に魅力的なシーンが満載

ドラマ『半沢直樹』が怪物的視聴率を記録したのは2013年のことだった。

池井戸潤の手による原作『オレたちバブル入行組』『オレたち花のバブル組』も大ヒットし、さらにその後、半沢直樹シリーズの続篇や『下町ロケット』『民王』など、数々の池井戸小説が、多くの人々に親しまれてきた。

池井戸潤を取り巻くそうした現状の中で、あらためてお伝えしたいのは、池井戸潤が『アキラとあきら』でまた一つ新たな扉を開けたということ。新鮮な読書の喜びがここにあるのだ。

零細企業の経営者の息子として育った山崎瑛は、小学校高学年のころに父の工場が倒産し、夜逃げ同然に母の実家に転がり込んだ。それと同じころ、大手海運会社の御曹司である階堂彬は、自分のその立場を厭わしく思っていた……。

小学生を起点にバブル期の就職まで、さらに新入社員から中堅、そしてその後―今回池井戸潤は、瑛と彬の成長を30年にわたって丁寧に描いた。ここがまずは新鮮だ。それに加え、山崎瑛と階堂彬という、等しく重みを置いた同世代の二人を主人公にした点も、新たな試みである。

この二つの特長が、本書では実に効果的に機能している。それぞれの30年も読ませるし、彼等が交わる際のドラマもまた読ませる。

例えば高校時代の山崎瑛の野球部での日々を描いた青春劇が印象的だし、二人が新入社員として登場するシーンも前半の山場として強烈に魅力的だ。

瑛と彬がそれぞれの苦悩と向き合う姿も生々しい。そうしたエピソードのひとつひとつが読み手の心をがっちりとつかみ、しかも過去と現在が意外な形で結びつきながら、読者をクライマックスへと力強く導いていく。

そのクライマックスがまさに圧巻。企業と銀行の欲と論理が複雑に絡み合う問題に、さらに当事者の親族たちの思惑というデリケートな要素が加味され、しかも時間にゆとりがない。そうした難問に、瑛と彬が毅然と立ち向かうのだ。彼等がそれまでの経験を活かして必死で知恵を絞り、動き回り、辛くとも決断を下す様を読む至福を、是非満喫されたい。

ちなみに本書は『問題小説』の連載(2006年~09年)に手を加えて纏め上げた作品。幻の長篇が世に出るだけでも嬉しいのに、内容も超一級品で、ファンは狂喜乱舞必至だ。

そんな本書は、本年7月にドラマ化された。全九回というから、かなりのボリューム。こちらにも期待したい。

アキラとあきら
むらかみ・たかし/書評やインタビューなどで活躍。『ミステリアス・ジャム・セッション』『名探偵ベスト101』など

『週刊現代』2017年6月24日号より