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海老蔵親子の「宙乗り」に大喝采! 歌舞伎の本質がここにある

「現実の家族」と「虚構の舞台」の融合
中川 右介 プロフィール

人間国宝より子供を見たい!

今年、喝采を浴びた子供は堀越勸玄だけではなかった。

1月に新橋演舞場で市川右近(6歳)、2月に歌舞伎座で中村勘太郎(5歳)と中村長三郎(3歳)、5月に歌舞伎座で坂東亀三郎(4歳)がそれぞれ「初舞台」、5月の歌舞伎座で寺嶋眞秀(4歳)が「初お目見得」をし、7月は堀越勸玄(4歳)が登場したのだ。

70代の人間国宝・芸術院会員が顔を揃えて名作を名演した月は、チケットの売上が悪く、5歳前後の子供たちが出る月のほうが売れ行きはいい。

とくに7月は、勸玄が出る夜の部は早々と完売した。興行サイドとしては複雑な思いだろう。

偶然、同時代に同世代の子が多いだけではあるのだが、なぜ子供がそんなに人気があるのか。

日本全体が少子化のなか、歌舞伎界は着実に次世代が生まれている。30代から40代の役者のほとんどが結婚し、二人以上の子がいる。日本全体の未婚化と少子化の流れのなかでは、歌舞伎の世界がかなり特殊だということを逆説的に証明している。

まず、「結婚するしないは本人の自由」というのは建前としてはあるが、どの役者も周囲から結婚を迫られ、詳しいことは知らないが、縁談を持ってくる後援者がいるのだろう。ほとんどが30前後で結婚する。

そして結婚すれば、「男の子はまだか」という話になり、たいがい、男の子が授かる。

生まれた子を養育するにあたってのサポート体制も、昔ながらのものが続いている。何人も生めるのは経済的にも恵まれているからでもある。

徳川時代からの伝統は舞台の上だけで続いているのではない。

役者の私生活もまた、昔ながらの家制度が残り、そのかわり、コミュニティ全体で子供を育てるシステムが温存されている。

歌舞伎座へ、子供の出る月に客が押し寄せるのは、単に有名な役者の子供が見たいからだけではないだろう。

観客の間に、失われてしまった「子供のいる家庭」への憧憬があるからかもしれない。そう、当たり前だった「子供のいる家庭」は、いまや珍しいのだ。

演劇のなかではテレビドラマや映画も含めて、子供のいる家庭は出てくるが、それは完全に虚構だ。

しかし歌舞伎役者の家は実在するもので、本当の親子が暮らす。その家庭での様子は分からないが、舞台に父子が一緒に出ると、実際の家庭を想起させ、そこが楽しいのだ。

 

消費されるファミリーの物語

役者の私生活と舞台との融合を増幅させたのは、中村勘三郎の一家のテレビのドキュメンタリーだ。

当初、勘三郎としては、公演の宣伝にもなるし、舞台ができるまでを映像で記録しておくのも役に立つと考えて、ドキュメンタリーを作ることに同意したのだと思う。

だが、いつしかそれは「歌舞伎の作られ方」でも「役者の稽古の記録」でもなく、ファミリーの物語として消費されるようになってしまった。

勘三郎一家の次に、ドキュメンタリーの素材となったのが、海老蔵と妻・小林麻央だった。二人は、初めて会う瞬間からテレビカメラが捉えていたという、史上稀なカップルである。